第5章 積分法

定積分と不等式
─ 面積の大小で不等式を証明する

関数の大小関係 $f(x) \le g(x)$ があるとき、積分しても大小関係は保たれます。つまり $\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx \le \int_a^b g(x)\,dx$ です。この単純な原理を使うと、一見複雑な不等式を「面積の比較」として視覚的に証明できます。定積分の不等式は、極限の評価やはさみうちの原理と組み合わせて、入試では非常に高い頻度で出題されます。

1積分の大小関係 ─ なぜ面積で不等式が示せるのか

定積分の不等式を支える基本原理は極めてシンプルです。

📐 積分の単調性

$a \le b$ かつ区間 $[a, b]$ で $f(x) \le g(x)$ ならば、

$$\int_a^b f(x)\,dx \le \int_a^b g(x)\,dx$$

特に、$f(x) \ge 0$ ならば $\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx \ge 0$

※ 等号成立条件:$f(x) = g(x)$ が $[a, b]$ で常に成り立つとき。

💡 積分の不等式の本質

定積分は「符号付き面積」を表します。曲線 $y = f(x)$ が曲線 $y = g(x)$ の下にあるなら、$f$ の下の面積は $g$ の下の面積以下です。

この原理を使えば、被積分関数の不等式 → 定積分の不等式という変換が可能になります。微分法で示した不等式を積分して、より強い結果を得ることもできます。

この原理の帰結として、次の重要な不等式が得られます。

📐 積分の絶対値の不等式

$$\left|\int_a^b f(x)\,dx\right| \le \int_a^b |f(x)|\,dx$$

※ $-|f(x)| \le f(x) \le |f(x)|$ を積分して得られます。三角不等式の積分版です。

⚠️ 落とし穴:積分区間の向きを無視する

✗ $f(x) \ge 0$ だから $\displaystyle\int_b^a f(x)\,dx \ge 0$($b > a$ のとき)

○ $b > a$ のとき $\displaystyle\int_b^a f(x)\,dx = -\int_a^b f(x)\,dx \le 0$

不等式 $\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx \ge 0$ は $a \le b$ のときに成り立ちます。積分の上端と下端が逆転すると符号が変わるため、積分区間の向きに注意が必要です。

2面積を利用した不等式の証明

定積分の不等式を証明する最も基本的な手法は、曲線と直線(または別の曲線)で囲まれた面積の大小を比較することです。

典型例:$e^x \ge 1 + x$ の積分への応用

微分法で示した $e^x \ge 1 + x$($x \ge 0$)を $0$ から $t$($t > 0$)まで積分すると、

$$\int_0^t e^x\,dx \ge \int_0^t (1+x)\,dx$$

$$e^t - 1 \ge t + \frac{t^2}{2}$$

すなわち $e^t \ge 1 + t + \dfrac{t^2}{2}$ が得られます。これをさらに積分すると $e^t \ge 1 + t + \dfrac{t^2}{2} + \dfrac{t^3}{6}$ が得られ、繰り返すことで $e^x$ のテイラー展開の各部分和で下から評価できます。

💡 「不等式を積分して強める」テクニック

不等式 $f(x) \ge g(x)$ が成り立つとき、両辺を積分すると新しい不等式が得られます。しかも、積分によって差が「蓄積」されるため、元の不等式より強い結果になることがあります。

この手法を繰り返し適用すると、連鎖的に不等式を強化できます。入試ではこの「積分の繰り返し」パターンが頻出です。

$\log$ に関する不等式

$x > 0$ のとき $\dfrac{1}{1+x} \le 1$ より、$0$ から $t$($0 < t \le 1$)まで積分すると、

$$\log(1+t) = \int_0^t \frac{1}{1+x}\,dx \le \int_0^t 1\,dx = t$$

また $\dfrac{1}{1+x} \ge 1 - x$($x \ge 0$)より、

$$\log(1+t) \ge t - \frac{t^2}{2}$$

これらを合わせて $t - \dfrac{t^2}{2} \le \log(1+t) \le t$ が得られます。

⚠️ 落とし穴:被積分関数の不等式の証明を省略する

✗ 「$e^x \ge 1 + x$ は明らか」として積分 → 根拠が不十分で減点

○ $f(x) = e^x - 1 - x$ として $f'(x) = e^x - 1 \ge 0$($x \ge 0$)、$f(0) = 0$ より $f(x) \ge 0$ と明記する

定積分の不等式の証明では、被積分関数の大小関係を微分法で厳密に示すことが出発点です。この部分の証明を省略すると、答案全体の論証が不完全になります。

3$\int_0^1 x^n f(x)\,dx$ 型の評価

$n$ をパラメータとして含む定積分 $\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx$ は、$n \to \infty$ のときの振る舞いを調べる問題として頻出です。$0 \le x \le 1$ で $x^n$ は $n$ が大きいほど急速に $0$ に近づく($x = 1$ を除く)ので、積分値も $0$ に近づきます。

$\displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx$ の評価

$J_n = \displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx$ について、$0 \le x \le 1$ で $1 \le e^x \le e$ なので、

$$\int_0^1 x^n \cdot 1\,dx \le J_n \le \int_0^1 x^n \cdot e\,dx$$

$$\frac{1}{n+1} \le J_n \le \frac{e}{n+1}$$

はさみうちの原理により $J_n \to 0$($n \to \infty$)がわかります。さらに $(n+1)J_n$ を考えると $1 \le (n+1)J_n \le e$ であり、より精密な評価も可能です。

📐 $x^n$ を含む定積分の基本評価

$[0, 1]$ で $m \le f(x) \le M$ のとき、

$$\frac{m}{n+1} \le \int_0^1 x^n f(x)\,dx \le \frac{M}{n+1}$$

※ $\displaystyle\int_0^1 x^n\,dx = \dfrac{1}{n+1}$ を利用しています。

⚠️ 落とし穴:$f(x)$ の評価が粗すぎる

✗ $e^x \le e^1 = e$ という大雑把な評価だけで済ませる → はさみうちで極限は出るが、精度が不足する問題もある

○ 必要に応じて $e^x$ のテイラー展開 $e^x = 1 + x + \dfrac{x^2}{2} + \cdots$ を使い、より精密に評価する

問題が「極限値を求めよ」なら粗い評価で十分ですが、「不等式を示せ」なら必要な精度に応じた評価を選びましょう。

💡 $x^n$ が「$x = 1$ の近傍だけを拾う」

$0 \le x < 1$ で $x^n \to 0$($n \to \infty$)なので、$x^n$ は $n$ が大きくなると $x = 1$ の近くでのみ大きな値を持ちます。したがって $\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx$ は $x = 1$ 付近での $f$ の値、すなわち $f(1)$ に $\dfrac{1}{n+1}$ を掛けた程度の値になります。

この直感は、$(n+1)\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx \to f(1)$ という結果に結実します($f$ が連続のとき)。

🔗 ラプラスの方法

大学数学では、$\displaystyle\int_a^b e^{n\phi(x)}g(x)\,dx$ の $n \to \infty$ での漸近挙動を調べる手法をラプラスの方法(鞍点法)と呼びます。$x^n = e^{n\log x}$ と見れば、$\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx$ はまさにこの形であり、$\log x$ が $x = 1$ で最大値 $0$ を取ることから、$x = 1$ 付近の寄与が支配的になるのです。

4数列の和の不等式と積分

区分求積法の考え方を逆に利用すると、数列の和を定積分で上下から評価できます。

調和級数の評価

$f(x) = \dfrac{1}{x}$ は $(0, \infty)$ で単調減少なので、$k \le x \le k+1$ で $\dfrac{1}{k+1} \le \dfrac{1}{x} \le \dfrac{1}{k}$ です。各辺を $k$ から $k+1$ まで積分すると、

$$\frac{1}{k+1} \le \int_k^{k+1}\frac{1}{x}\,dx \le \frac{1}{k}$$

$k = 1$ から $n$ まで足し合わせると、

$$\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k+1} \le \int_1^{n+1}\frac{1}{x}\,dx \le \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}$$

$$\sum_{k=2}^{n+1}\frac{1}{k} \le \log(n+1) \le \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}$$

右側の不等式から $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k} \ge \log(n+1) \to \infty$ が得られ、調和級数が発散することがわかります。

$\log(n!)$ の評価

同様の手法で、$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\log k = \log(n!)$ を $\displaystyle\int_1^n \log x\,dx = n\log n - n + 1$ で評価できます。

$$\int_1^n \log x\,dx \le \log(n!) \le \int_1^{n+1}\log x\,dx$$

$$n\log n - n + 1 \le \log(n!) \le (n+1)\log(n+1) - n$$

これはスターリングの近似 $\log(n!) \approx n\log n - n$ の基礎となる評価です。

▷ 長方形と曲線の関係

$f(x)$ が単調減少のとき、区間 $[k, k+1]$ での長方形を考えます。

高さ $f(k)$ の長方形(左端)は曲線の上にはみ出し、高さ $f(k+1)$ の長方形(右端)は曲線の下に収まります。

したがって $f(k+1) \le \displaystyle\int_k^{k+1} f(x)\,dx \le f(k)$ が成り立ちます。

この不等式を $k$ について足し合わせると、数列の部分和を定積分で挟めるのです。

⚠️ 落とし穴:足し合わせの範囲を間違える

✗ $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}$ を評価するのに $\displaystyle\int_1^n \frac{1}{x}\,dx$ だけを使う → 上からの評価にしかならない

○ $\displaystyle\int_1^{n+1}\frac{1}{x}\,dx \le \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}$ と $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k} \le 1 + \int_1^n \frac{1}{x}\,dx$ の両方を使って挟む

積分区間の端点と和の範囲の対応を図に描いて確認すると、間違いを防げます。

5はさみうちの原理との組み合わせ

定積分の不等式の最も強力な応用は、はさみうちの原理と組み合わせて極限値を求めることです。

典型例:$\displaystyle\lim_{n\to\infty}n\int_0^1 x^n \log(1+x)\,dx$

$A_n = n\displaystyle\int_0^1 x^n \log(1+x)\,dx$ とおきます。$0 \le x \le 1$ で $x - \dfrac{x^2}{2} \le \log(1+x) \le x$ を使って評価します。

上からの評価:$\log(1+x) \le x$ より、

$$A_n \le n\int_0^1 x^{n+1}\,dx = \frac{n}{n+2}$$

下からの評価:$\log(1+x) \ge x - \dfrac{x^2}{2}$ より、

$$A_n \ge n\int_0^1 x^n\left(x - \frac{x^2}{2}\right)dx = n\left(\frac{1}{n+2} - \frac{1}{2(n+3)}\right) = \frac{n}{n+2} - \frac{n}{2(n+3)}$$

$n \to \infty$ で右辺 $\to 1 - \dfrac{1}{2} = \dfrac{1}{2}$、左辺の上限 $\dfrac{n}{n+2} \to 1$。

より精密に、$\dfrac{n}{n+2} - \dfrac{n}{2(n+3)} \to 1 - \dfrac{1}{2} = \dfrac{1}{2}$ かつ $\dfrac{n}{n+2} \to 1$ ですが、これでは挟めていません。

正しくは $(n+1)\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx \to f(1)$ の一般論を使います。$f(x) = \log(1+x)$ として $f(1) = \log 2$ より、

$$n\int_0^1 x^n \log(1+x)\,dx = \frac{n}{n+1} \cdot (n+1)\int_0^1 x^n \log(1+x)\,dx \to 1 \cdot \log 2 = \log 2$$

💡 $(n+1)\int_0^1 x^n f(x)\,dx \to f(1)$ の直感

$(n+1)x^n$ は $[0,1]$ 上の「重み関数」で、$\displaystyle\int_0^1 (n+1)x^n\,dx = 1$ です。$n$ が大きくなると、この重みは $x = 1$ の近くに集中します。

したがって $(n+1)\displaystyle\int_0^1 x^n f(x)\,dx$ は $f$ の「$x = 1$ 付近での加重平均」であり、$n \to \infty$ で $f(1)$ に収束するのです。

⚠️ 落とし穴:評価が粗すぎてはさみうちが失敗する

✗ $0 \le \log(1+x) \le \log 2$ で評価 → $0 \le A_n \le \dfrac{n\log 2}{n+1}$ で $A_n \to ?$($0$ と $\log 2$ の間としか言えない)

○ $\log(1+x) = x - \dfrac{x^2}{2} + \cdots$ のようにより精密な評価を使い、上限と下限を近づける

はさみうちの原理は、上限と下限が同じ値に収束する必要があります。評価が粗いと上限と下限が一致せず、極限が定まりません。

🔗 コーシー・シュワルツの不等式の積分版

大学数学では、$\left(\displaystyle\int_a^b f(x)g(x)\,dx\right)^2 \le \int_a^b f(x)^2\,dx \cdot \int_a^b g(x)^2\,dx$ というコーシー・シュワルツの不等式(積分版)が重要な道具となります。これは有限和の場合の $\left(\displaystyle\sum a_k b_k\right)^2 \le \sum a_k^2 \cdot \sum b_k^2$ の連続版です。

まとめ

✅ 確認テスト

Q1. $[a,b]$ で $f(x) \le g(x)$ のとき、$\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx$ と $\displaystyle\int_a^b g(x)\,dx$ の大小関係は?

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$\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx \le \int_a^b g(x)\,dx$($a \le b$ のとき)

Q2. $e^x \ge 1 + x$($x \ge 0$)を $0$ から $t$ まで積分すると、どんな不等式が得られますか?

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$e^t - 1 \ge t + \dfrac{t^2}{2}$、すなわち $e^t \ge 1 + t + \dfrac{t^2}{2}$

Q3. $\displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx$ を $\dfrac{1}{n+1}$ と $\dfrac{e}{n+1}$ で挟む根拠は何ですか?

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$[0, 1]$ で $1 \le e^x \le e$ なので、$x^n \cdot 1 \le x^n e^x \le x^n \cdot e$。各辺を積分して $\dfrac{1}{n+1} \le \displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx \le \dfrac{e}{n+1}$。

Q4. $f(x) = \dfrac{1}{x}$(単調減少)のとき、$\displaystyle\int_k^{k+1}\frac{1}{x}\,dx$ と $\dfrac{1}{k}$, $\dfrac{1}{k+1}$ の大小関係は?

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$\dfrac{1}{k+1} \le \displaystyle\int_k^{k+1}\frac{1}{x}\,dx \le \dfrac{1}{k}$。単調減少なので左端値が最大、右端値が最小。

Q5. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k} \ge \log(n+1)$ から何がわかりますか?

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$\log(n+1) \to \infty$($n \to \infty$)なので、調和級数 $\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k}$ は発散する。

入試問題演習

問題 1 LEVEL A 基本的な不等式

$x \ge 0$ のとき $\sin x \le x$ を利用して、次の不等式を示せ。

$$1 - \frac{x^2}{2} \le \cos x \le 1 \quad (x \ge 0)$$

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解答

右側の不等式 $\cos x \le 1$ は明らかである($\cos x$ の最大値は $1$)。

左側の不等式:$\sin x \le x$($x \ge 0$)を $0$ から $t$($t \ge 0$)まで積分すると、

$$\int_0^t \sin x\,dx \le \int_0^t x\,dx$$

$$-\cos t + 1 \le \frac{t^2}{2}$$

$$\cos t \ge 1 - \frac{t^2}{2}$$

$t$ を $x$ に書き直して、$\cos x \ge 1 - \dfrac{x^2}{2}$($x \ge 0$)。

以上より $1 - \dfrac{x^2}{2} \le \cos x \le 1$ が示された。□

解説

方針:数学的帰納法や背理法など、適切な証明手法を選択する。

採点ポイント
  • $\sin x \le x$ の利用を明記 … 3点
  • 積分の正しい実行 … 4点
  • 不等式の整理と結論 … 3点