$I_n = \displaystyle\int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx$ のように、被積分関数にパラメータ $n$ が含まれる定積分は、直接計算が困難な場合でも、部分積分を適用することで $I_n$ と $I_{n-2}$ の間の漸化式が得られます。この漸化式を繰り返し使えば、すべての $I_n$ を求めることができます。定積分と数列の融合は入試頻出であり、ウォリスの公式や $\pi$ の近似にもつながる重要なテーマです。
$\displaystyle\int_0^{\pi/2} \sin^{10} x\,dx$ を直接計算しようとすると、$\sin^{10} x$ を展開する必要があり、これは非常に煩雑です。しかし、$\sin^n x$ を $\sin^{n-2} x \cdot \sin^2 x$ と分解し、$\sin^2 x = 1 - \cos^2 x$ を利用する方針では、結局さらに複雑な式が現れます。
ここで発想を変え、$\sin^n x = \sin^{n-1} x \cdot \sin x$ と分けて部分積分を適用すると、$I_n$ が $I_{n-2}$ で表される漸化式が得られます。漸化式さえあれば、$I_0$ や $I_1$ という初期値から順に $I_2, I_3, \ldots$ をすべて求められるのです。
定積分 $I_n$ を直接計算する代わりに、$I_n$ と $I_{n-2}$(または $I_{n-1}$)の関係式を導くのが定積分の漸化式の考え方です。部分積分が「次数を下げる装置」として機能し、$n$ の値を2ずつ(場合により1ずつ)減らすことができます。
数列の漸化式と同じ構造です。初期値($I_0, I_1$ など)と漸化式があれば、すべての $I_n$ が確定します。
✗ $\sin^n x$ を三角関数の倍角・半角で展開してから積分する → $n$ が大きいと非現実的
○ 部分積分で漸化式を導き、初期値から順に求める → どんな $n$ でも対応可能
$n = 2, 4$ 程度なら半角の公式で直接計算できますが、一般の $n$ に対応するには漸化式が不可欠です。
最も基本的かつ重要な定積分の漸化式を導出します。$n \ge 2$ の整数に対して、
$$I_n = \int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx$$
と定義します。$\sin^n x = \sin^{n-1} x \cdot \sin x$ と分解して部分積分を行います。
$u = \sin^{n-1} x$、$v' = \sin x$ として部分積分を適用します。
$u' = (n-1)\sin^{n-2} x \cos x$、$v = -\cos x$ より、
$$I_n = \left[-\sin^{n-1} x \cos x\right]_0^{\pi/2} + (n-1)\int_0^{\pi/2} \sin^{n-2} x \cos^2 x\,dx$$
$x = 0$ のとき $\sin^{n-1} 0 = 0$、$x = \dfrac{\pi}{2}$ のとき $\cos\dfrac{\pi}{2} = 0$ なので、第1項は $0$ です。
$\cos^2 x = 1 - \sin^2 x$ を代入すると、
$$I_n = (n-1)\int_0^{\pi/2} \sin^{n-2} x (1 - \sin^2 x)\,dx = (n-1)(I_{n-2} - I_n)$$
$I_n$ について整理すると、
$$I_n + (n-1)I_n = (n-1)I_{n-2}$$
$$nI_n = (n-1)I_{n-2}$$
$$I_n = \frac{n-1}{n}\,I_{n-2} \quad (n \ge 2)$$
※ 初期値:$I_0 = \displaystyle\int_0^{\pi/2} 1\,dx = \dfrac{\pi}{2}$、$I_1 = \displaystyle\int_0^{\pi/2} \sin x\,dx = 1$
この漸化式は $n$ を2ずつ下げます。したがって、$n$ が偶数なら $I_0 = \dfrac{\pi}{2}$ に帰着し、$n$ が奇数なら $I_1 = 1$ に帰着します。
✗ $u = \sin x$、$v' = \sin^{n-1} x$ とする → $v$ が求められない
○ $u = \sin^{n-1} x$、$v' = \sin x$ とする → $v = -\cos x$ で計算可能
「微分したい方(次数を下げたい方)を $u$、積分できる方を $v'$」が部分積分の原則です。$\sin^{n-1} x$ を微分すると次数が $n-2$ に下がり、$\cos x$ が現れます。
$J_n = \displaystyle\int_0^{\pi/2} \cos^n x\,dx$ についても全く同様の計算で、
$$J_n = \frac{n-1}{n}\,J_{n-2}$$
が得られます。実は $\displaystyle\int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx = \int_0^{\pi/2} \cos^n x\,dx$ が成り立ちます($t = \dfrac{\pi}{2} - x$ と置換すれば確認できます)。したがって $I_n = J_n$ です。
大学数学では、$\displaystyle\int_0^{\pi/2} \sin^m x \cos^n x\,dx$ はベータ関数 $B\!\left(\dfrac{m+1}{2}, \dfrac{n+1}{2}\right)$ と結びつきます。$I_n$ の漸化式は、ガンマ関数の性質 $\Gamma(s+1) = s\Gamma(s)$ の特殊な場合に相当します。
漸化式 $I_n = \dfrac{n-1}{n}\,I_{n-2}$ を繰り返し適用して、$I_n$ の具体的な値を求めましょう。
$$I_{2m} = \frac{2m-1}{2m} \cdot \frac{2m-3}{2m-2} \cdot \frac{2m-5}{2m-4} \cdots \frac{3}{4} \cdot \frac{1}{2} \cdot I_0$$
$I_0 = \dfrac{\pi}{2}$ を代入すると、
$$I_{2m} = \frac{(2m-1)(2m-3) \cdots 3 \cdot 1}{(2m)(2m-2) \cdots 4 \cdot 2} \cdot \frac{\pi}{2} = \frac{(2m)!}{2^{2m}(m!)^2} \cdot \frac{\pi}{2}$$
※ 分子の $(2m-1)(2m-3) \cdots 1$ を「二重階乗」$(2m-1)!!$ と書くこともあります。
$$I_{2m+1} = \frac{2m}{2m+1} \cdot \frac{2m-2}{2m-1} \cdots \frac{4}{5} \cdot \frac{2}{3} \cdot I_1$$
$I_1 = 1$ を代入すると、
$$I_{2m+1} = \frac{(2m)(2m-2) \cdots 4 \cdot 2}{(2m+1)(2m-1) \cdots 5 \cdot 3} = \frac{2^{2m}(m!)^2}{(2m+1)!}$$
※ 奇数の場合は $\pi$ が現れないことに注目してください。
具体的な値を計算してみましょう。
| $n$ | $I_n$ の値 | 数値(近似) |
|---|---|---|
| $0$ | $\dfrac{\pi}{2}$ | $1.5708$ |
| $1$ | $1$ | $1.0000$ |
| $2$ | $\dfrac{\pi}{4}$ | $0.7854$ |
| $3$ | $\dfrac{2}{3}$ | $0.6667$ |
| $4$ | $\dfrac{3\pi}{16}$ | $0.5890$ |
| $5$ | $\dfrac{8}{15}$ | $0.5333$ |
| $6$ | $\dfrac{5\pi}{32}$ | $0.4909$ |
$0 \le x \le \dfrac{\pi}{2}$ で $0 \le \sin x \le 1$ なので、$\sin^n x \ge \sin^{n+1} x$ が成り立ちます。したがって $I_n \ge I_{n+1}$、つまり $I_n$ は $n$ について単調減少です。
この性質は、ウォリスの公式の導出(次の記事)で重要な役割を果たします。
✗ $I_6$ を求めるのに $I_1 = 1$ から出発する → 偶数と奇数が混在し、正しい値が出ない
○ $I_6$ は偶数なので $I_0 = \dfrac{\pi}{2}$ から出発 → $I_6 = \dfrac{5}{6} \cdot \dfrac{3}{4} \cdot \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{\pi}{2} = \dfrac{5\pi}{32}$
漸化式は2ステップずつ下がるので、偶数列と奇数列は独立した数列です。
$\sin^n x$ の積分以外にも、部分積分を繰り返すことで漸化式が得られる定積分は多数あります。入試で頻出のパターンを見ていきましょう。
$J_n = \displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx$ とおきます。$u = x^n$、$v' = e^x$ として部分積分すると、
$$J_n = \left[x^n e^x\right]_0^1 - n\int_0^1 x^{n-1} e^x\,dx = e - nJ_{n-1}$$
$$J_n = e - nJ_{n-1} \quad (n \ge 1), \quad J_0 = \int_0^1 e^x\,dx = e - 1$$
$K_n = \displaystyle\int_0^1 x^n \log x\,dx$($n \ge 0$)について、$u = \log x$、$v' = x^n$ として部分積分すると、
$$K_n = \left[\frac{x^{n+1}}{n+1}\log x\right]_0^1 - \int_0^1 \frac{x^{n+1}}{n+1} \cdot \frac{1}{x}\,dx = 0 - \frac{1}{n+1}\int_0^1 x^n\,dx = -\frac{1}{(n+1)^2}$$
この場合は漸化式ではなく一般項が直接求まります。$\left[\dfrac{x^{n+1}}{n+1}\log x\right]_0^1$ で $x \to +0$ のとき $x^{n+1}\log x \to 0$ であることに注意が必要です。
$L_n = \displaystyle\int_0^1 (\log x)^n\,dx$($n \ge 1$)について、$u = (\log x)^n$、$v' = 1$ として部分積分すると、
$$L_n = \left[x(\log x)^n\right]_0^1 - \int_0^1 x \cdot \frac{n(\log x)^{n-1}}{x}\,dx = 0 - nL_{n-1} = -nL_{n-1}$$
$L_0 = 1$ より、$L_n = (-1)^n \cdot n!$ と求まります。
定積分の漸化式は、被積分関数を「微分で次数が下がる部分」と「積分できる部分」に分けて部分積分することで得られます。
$\sin^n x$、$x^n e^x$、$(\log x)^n$ のいずれも、$n$ を含む因子を微分する側($u$)に選ぶのがポイントです。
✗ $\left[x(\log x)^n\right]_0^1$ で $x = 0$ の値を確認せずに $0$ とする
○ $\displaystyle\lim_{x \to +0} x(\log x)^n = 0$ を(ロピタルの定理などで)確認してから $0$ とする
$x \to +0$ で $\log x \to -\infty$ ですが、$x$ が $0$ に近づく速さの方が速いため、積は $0$ に収束します。この確認を答案に明記することが減点防止につながります。
$J_n = e - nJ_{n-1}$ を繰り返し適用すると、$e$ を $n!$ で表す式が得られます。これは $e = \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{k!}$ の証明にも応用でき、$e$ が無理数であることの証明にも使われます。
定積分の漸化式は、$n \to \infty$ の極限と組み合わせて出題されることが非常に多いです。漸化式から $I_n$ の振る舞いを調べ、はさみうちの原理で極限値を求めるのが典型的な流れです。
$0 \le \sin x \le 1$($0 \le x \le \dfrac{\pi}{2}$)より、$0 \le \sin^n x \le \sin^{n-1} x$ です。積分すると $0 \le I_n \le I_{n-1}$ が得られます。
また、$\sin^n x \le 1$ より $I_n \le \dfrac{\pi}{2}$ であり、漸化式から $I_n = \dfrac{n-1}{n}I_{n-2} \le I_{n-2}$ なので $I_n$ は単調減少で下に有界です。したがって $\{I_n\}$ は収束し、極限を $\alpha$ とすると漸化式から $\alpha = \alpha$ となって $\alpha$ は直接は定まりませんが、$0 \le I_n \le I_0 \cdot \prod_{k=1}^{[n/2]} \dfrac{2k-1}{2k}$ と評価でき、この無限積は $0$ に収束するため $I_n \to 0$ がわかります。
$I_{n+1} \le I_n \le I_{n-1}$ の各辺を $I_{n-1} > 0$ で割ると、
$$\frac{I_{n+1}}{I_{n-1}} \le \frac{I_n}{I_{n-1}} \le 1$$
漸化式から $\dfrac{I_{n+1}}{I_{n-1}} = \dfrac{n}{n+1}$ なので、
$$\frac{n}{n+1} \le \frac{I_n}{I_{n-1}} \le 1$$
はさみうちの原理から $\dfrac{I_n}{I_{n-1}} \to 1$($n \to \infty$)が得られます。この結果はウォリスの公式の導出で本質的に使われます。
✗ $I_n = \dfrac{n-1}{n}I_{n-2}$ で $n \to \infty$ として $\alpha = \alpha$ → 極限値が不定
○ $I_n$ の不等式評価(はさみうち)や、$I_n$ の積の表示を用いて $I_n \to 0$ を示す
漸化式の両辺で $n \to \infty$ とするだけでは、比が $1$ に近づくため情報が失われます。評価式を別途用意することが必要です。
$\dfrac{I_{2n}}{I_{2n+1}} \to 1$ と、$I_{2n}$, $I_{2n+1}$ の具体的な値を組み合わせると、$\dfrac{\pi}{2} = \displaystyle\prod_{k=1}^{\infty}\frac{4k^2}{4k^2 - 1}$ というウォリスの公式が導かれます。これは次の記事(III-5-16)で詳しく扱います。
Q1. $I_n = \displaystyle\int_0^{\pi/2}\sin^n x\,dx$ の漸化式を書いてください。
Q2. $I_0$ と $I_1$ の値はそれぞれいくつですか。
Q3. $I_4 = \displaystyle\int_0^{\pi/2}\sin^4 x\,dx$ の値を求めてください。
Q4. $J_n = \displaystyle\int_0^1 x^n e^x\,dx$ の漸化式を書いてください。
Q5. $I_n$ が単調減少する理由を簡潔に述べてください。
$I_n = \displaystyle\int_0^{\pi/2}\cos^n x\,dx$($n \ge 2$)について、$I_n$ と $I_{n-2}$ の間の漸化式を導き、$I_5$ の値を求めよ。
$\cos^n x = \cos^{n-1} x \cdot \cos x$ として、$u = \cos^{n-1} x$、$v' = \cos x$ で部分積分を行う。
$u' = -(n-1)\cos^{n-2} x \sin x$、$v = \sin x$ より、
$$I_n = \left[\cos^{n-1} x \sin x\right]_0^{\pi/2} + (n-1)\int_0^{\pi/2}\cos^{n-2} x \sin^2 x\,dx$$
境界値は $0$。$\sin^2 x = 1 - \cos^2 x$ を代入して、$I_n = (n-1)(I_{n-2} - I_n)$。
整理して $I_n = \dfrac{n-1}{n}\,I_{n-2}$。
$I_5 = \dfrac{4}{5} \cdot I_3 = \dfrac{4}{5} \cdot \dfrac{2}{3} \cdot I_1 = \dfrac{4}{5} \cdot \dfrac{2}{3} \cdot 1 = \dfrac{8}{15}$
方針:基本的な積分公式を適用する。