第4章の後半テーマ ── 不等式の証明、近似式、速度・加速度、ロピタルの定理、テイラー展開 ── を融合した総合問題に取り組みます。これらのテーマは大学入試では「見慣れない設定」として出題されることが多く、微分の本質的理解が問われます。基本に立ち返りながら、難度の高い問題に対応できる力を養いましょう。
微分を利用した不等式の証明は、極限値の評価やはさみうちの原理と組み合わせて出題されることが多い重要パターンです。
不等式 $f(x) \le g(x) \le h(x)$ を微分で証明し、$x \to \infty$ や $n \to \infty$ の極限をはさみうちの原理で求める ── この流れが入試での定番です。
Step 1: 差 $F(x) = g(x) - f(x)$ を作り、$F'(x) \ge 0$ と $F(0) = 0$(など)から $F(x) \ge 0$ を示す
Step 2: 同様に $h(x) - g(x) \ge 0$ を示す
Step 3: 得られた不等式に $x = \dfrac{1}{n}$ などを代入し、はさみうちの原理を適用する
問題:$x \ge 0$ のとき、$1 + x \le e^x \le \dfrac{1}{1-x}$(ただし $0 \le x < 1$)を示し、これを用いて $\displaystyle\lim_{n \to \infty} n\left(e^{1/n} - 1\right)$ を求めよ。
前半(不等式の証明):
$f(x) = e^x - 1 - x$ とおくと、$f'(x) = e^x - 1 \ge 0$($x \ge 0$)で $f(0) = 0$ より $f(x) \ge 0$。
よって $e^x \ge 1 + x$($x \ge 0$)。
$g(x) = \dfrac{1}{1-x} - e^x$($0 \le x < 1$)とおくと、
$g'(x) = \dfrac{1}{(1-x)^2} - e^x$
$x = 0$ で $g'(0) = 1 - 1 = 0$ であり、$g''(x) = \dfrac{2}{(1-x)^3} - e^x$ について $g''(0) = 2 - 1 = 1 > 0$。
$0 \le x < 1$ で $\dfrac{2}{(1-x)^3} \ge 2 > e^0 = 1$ を出発点に、$g'(x) \ge 0$ が帰納的に示され、$g(0) = 0$ と合わせて $g(x) \ge 0$。
後半(極限の計算):
$x = \dfrac{1}{n}$($n \ge 2$)を代入すると:
$$1 + \frac{1}{n} \le e^{1/n} \le \frac{1}{1 - \frac{1}{n}} = \frac{n}{n-1}$$
各辺から $1$ を引いて $n$ 倍すると:
$$1 \le n\left(e^{1/n} - 1\right) \le \frac{n}{n-1} = \frac{1}{1 - \frac{1}{n}}$$
$n \to \infty$ で右辺 $\to 1$ より、はさみうちの原理から $\displaystyle\lim_{n \to \infty} n\left(e^{1/n} - 1\right) = 1$
この不等式の手法は、区分求積法の評価や、$\displaystyle\lim_{x \to 0}\frac{\sin x}{x} = 1$ の証明にも現れます。微分 → 不等式 → 極限という流れを身に付けましょう。
テイラー展開を利用すると、関数の $x = 0$ 付近での振る舞いが多項式で表現できます。これにより、不定形の極限やより精密な近似計算が可能になります。
$$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots$$
$$\sin x = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \cdots$$
$$\cos x = 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \cdots$$
$$\log(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \cdots \quad (|x| \le 1,\; x \neq -1)$$
※ 入試では「$x \to 0$ のとき $\sin x \approx x - \dfrac{x^3}{6}$」のように必要な項まで使います。
問題:$\displaystyle\lim_{x \to 0}\frac{e^x - 1 - x - \frac{x^2}{2}}{x^3}$ を求めよ。
$e^x$ のマクローリン展開より:
$$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \frac{x^4}{24} + \cdots$$
よって:
$$e^x - 1 - x - \frac{x^2}{2} = \frac{x^3}{6} + \frac{x^4}{24} + \cdots$$
$$\frac{e^x - 1 - x - \frac{x^2}{2}}{x^3} = \frac{1}{6} + \frac{x}{24} + \cdots \to \frac{1}{6} \quad (x \to 0)$$
✗ $\dfrac{0}{0}$ 型なら常にロピタルが最善 → 3回微分が必要で計算量大
✓ 展開を使えば一目瞭然。ロピタルは2回程度で済む場合に有効
高次の不定形ではテイラー展開が圧倒的に効率的です。
$\sin x \approx x$ は $x$ が小さいときの1次近似ですが、その誤差はどの程度でしょうか。テイラーの定理(剰余項付き)を使うと:
$$\sin x = x - \frac{x^3}{6} + R_5(x), \quad |R_5(x)| \le \frac{|x|^5}{5!}$$
例えば $x = 0.1$ のとき $|\sin 0.1 - 0.1| \le \dfrac{(0.1)^3}{6} \approx 1.67 \times 10^{-4}$ と評価でき、3次の項まで取れば $|R_5| \le \dfrac{(0.1)^5}{120} \approx 8.3 \times 10^{-8}$ と非常に高精度です。
媒介変数表示された曲線上を動く点の運動を、微分法を用いて解析する総合問題に取り組みます。
問題:点 $P$ が $x = e^t \cos t,\; y = e^t \sin t$ に従って運動するとき、時刻 $t$ における速さと、$t = 0$ から $t = \pi$ までの道のりを求めよ。
$$\frac{dx}{dt} = e^t(\cos t - \sin t), \quad \frac{dy}{dt} = e^t(\sin t + \cos t)$$
速さ $v$ は:
$$v = \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2}$$
$$= \sqrt{e^{2t}(\cos t - \sin t)^2 + e^{2t}(\sin t + \cos t)^2}$$
$$= e^t\sqrt{(\cos^2 t - 2\sin t\cos t + \sin^2 t) + (\sin^2 t + 2\sin t\cos t + \cos^2 t)}$$
$$= e^t\sqrt{1 + 1} = \sqrt{2}\,e^t$$
道のり $L$ は:
$$L = \int_0^{\pi} v\,dt = \int_0^{\pi} \sqrt{2}\,e^t\,dt = \sqrt{2}\left[e^t\right]_0^{\pi} = \sqrt{2}(e^{\pi} - 1)$$
$x = e^t \cos t,\; y = e^t \sin t$ は対数螺旋(等角螺旋)を描きます。極座標で $r = e^{\theta}$ と書け、接線と動径のなす角が常に一定($45°$)になる美しい曲線です。
速さが $\sqrt{2}\,e^t$ と単純な形になるのは、この等角性の帰結です。
加速度ベクトル $\boldsymbol{a} = \left(\dfrac{d^2x}{dt^2},\;\dfrac{d^2y}{dt^2}\right)$ は、接線方向成分(速さの変化)と法線方向成分(向きの変化)に分解できます。
上の例では:
$$\frac{d^2x}{dt^2} = e^t(\cos t - \sin t) + e^t(-\sin t - \cos t) = -2e^t \sin t$$
$$\frac{d^2y}{dt^2} = e^t(\sin t + \cos t) + e^t(\cos t - \sin t) = 2e^t \cos t$$
加速度の大きさは $|\boldsymbol{a}| = 2e^t$ であり、速さ $v = \sqrt{2}\,e^t$ との関係から曲率を計算できます。
関数にパラメータが含まれると、グラフの形状・極値の個数・接線の本数などが変化します。これらを場合分けして議論する力が入試では特に重要です。
問題:$f(x) = xe^{-ax}$($a > 0$)について、
(1) $f(x)$ の増減、極値を求め、グラフの概形を描け。
(2) 直線 $y = b$ が $y = f(x)$ と異なる $2$ つの共有点をもつ $b$ の範囲を求めよ。
(1) $f'(x) = e^{-ax} + x \cdot (-a)e^{-ax} = e^{-ax}(1 - ax) = 0$ より $x = \dfrac{1}{a}$
$x < \dfrac{1}{a}$ で $f'(x) > 0$、$x > \dfrac{1}{a}$ で $f'(x) < 0$ なので:
極大値 $f\!\left(\dfrac{1}{a}\right) = \dfrac{1}{a}e^{-1} = \dfrac{1}{ae}$
$x \to -\infty$ で $f(x) \to -\infty$、$x \to +\infty$ で $f(x) \to 0$
また $f(0) = 0$、$f''(x) = e^{-ax}(a^2 x - 2a)$ より変曲点は $x = \dfrac{2}{a}$
(2) $y = b$ と $y = f(x)$ が異なる2つの共有点をもつ条件は、グラフの概形から:
$$0 < b < \frac{1}{ae}$$
$b = 0$ では共有点は $x = 0$ のみ(接する)、$b = \dfrac{1}{ae}$ では接する。$b < 0$ でも共有点は1つ。
「パラメータ $a$ を含む関数のグラフ」→「水平線 $y = b$ との共有点」→「$b$ の範囲」という流れは、微分法の応用で最も出題頻度の高い問題形式の一つです。
極大値・極小値をパラメータで表し、グラフの概形から条件を読み取りましょう。
上の関数で、原点から引いた接線は $y = f(x)$ 自身の接線 $y = x$($a = 1$ の場合)と一致します。このとき曲線と接線で囲まれる部分の面積は積分法の応用で計算しますが、まず接点を求め増減表から図形の位置関係を把握することが出発点です。
このように微分法の応用は積分法へとシームレスにつながり、第5章以降で本格的に扱います。
Q1. $x > 0$ のとき不等式 $e^x \ge 1 + x$ を証明するための関数 $f(x)$ の置き方を述べよ。
Q2. $e^x$ のマクローリン展開を第3項まで書け。
Q3. 媒介変数 $x = f(t)$, $y = g(t)$ で表された曲線の $\dfrac{dy}{dx}$ をどう求めるか。
Q4. はさみうちの原理を用いるとき、何を示す必要があるか。
Q5. $f(x) = x^3 - 3x$ の極値をすべて求めよ。
第4章の全範囲を横断する入試レベルの演習問題です。複数の技法を組み合わせて解く力を確認しましょう。
$x > 0$ のとき、$\log(1+x) > x - \dfrac{x^2}{2}$ を示せ。また、これを利用して $\displaystyle\lim_{n \to \infty} n\log\!\left(1 + \frac{1}{n}\right)$ の値を求めよ。
$f(x) = \log(1+x) - x + \dfrac{x^2}{2}$ とおくと、
$f'(x) = \dfrac{1}{1+x} - 1 + x = \dfrac{1 - (1+x) + x(1+x)}{1+x} = \dfrac{x^2}{1+x} > 0$($x > 0$)
$f(0) = 0$ と合わせて、$x > 0$ で $f(x) > 0$。□
また $\log(1+x) < x$($x > 0$)は $g(x) = x - \log(1+x)$ として $g'(x) = \dfrac{x}{1+x} > 0$、$g(0)=0$ より成立。
$x = \dfrac{1}{n}$ を代入して $n$ 倍:
$$1 - \frac{1}{2n} < n\log\!\left(1 + \frac{1}{n}\right) < 1$$
$n \to \infty$ ではさみうちの原理より $\displaystyle\lim_{n \to \infty} n\log\!\left(1 + \frac{1}{n}\right) = 1$
方針:不定形の処理に注意する。
数学的帰納法や背理法など、適切な証明手法を選択する。