第9章 複素数平面

共線条件と共円条件
─ 偏角と複比で図形の位置関係を判定する

3点が一直線上にあるか(共線)、4点が同一円周上にあるか(共円)── これらの判定は幾何学の基本問題ですが、複素数を使うと驚くほど簡潔に記述できます。偏角の条件、そして大学数学にもつながる「複比」の概念を通じて、図形の位置関係を代数的に判定する力を身につけましょう。

13点が一直線上にある条件 ── 偏角による判定

C-3-7 で見たように、3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある(共線である)条件は、$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であることでした。この条件を偏角で表現してみましょう。

$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であるとは、この複素数の偏角が $0$ または $\pi$(つまり正の実数か負の実数)であることを意味します。

📐 共線条件(偏角版)

3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある

$$\Longleftrightarrow \quad \arg\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = 0 \text{ または } \pi$$

$$\Longleftrightarrow \quad \frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} \in \mathbb{R}$$

※ 幾何的には「$\alpha$ から $\beta$ への方向と $\alpha$ から $\gamma$ への方向が同じ(または反対)」ということです。

💡 ここが本質:方向が同じ = 偏角の差が $0$ または $\pi$

$\arg\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \arg(\gamma - \alpha) - \arg(\beta - \alpha)$ は、$\alpha$ から見た $\beta$ と $\gamma$ の方向の差です。この差が $0$(同じ方向)か $\pi$(反対方向)であれば、3点は一直線上にあります。

偏角の差が $0$ でも $\pi$ でもなければ、3点は三角形を作ります。

⚠️ 落とし穴:$\alpha = \beta$ の場合を忘れる

✗ 誤:$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数かどうかを調べれば常にOK

○ 正:$\alpha = \beta$ のとき分母が $0$ になるので、3点が異なることを前提に議論する必要がある

共線条件の適用にあたっては、3点が相異なることを事前に確認しましょう。

2共線条件の代数的表現

偏角による条件は直観的ですが、計算では「$w$ が実数 $\Leftrightarrow$ $w = \bar{w}$」を使った代数的な表現の方が便利です。

📐 共線条件(共役を使った表現)

3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある条件:

$$\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \overline{\left(\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}\right)} = \frac{\bar{\gamma} - \bar{\alpha}}{\bar{\beta} - \bar{\alpha}}$$

これを整理すると:

$$(\gamma - \alpha)(\bar{\beta} - \bar{\alpha}) = (\bar{\gamma} - \bar{\alpha})(\beta - \alpha)$$

※ 行列式の形でも書けます(後述)。

行列式による表現

共線条件は、次の行列式が $0$ であることとも同値です。

$$\begin{vmatrix} \alpha & \bar{\alpha} & 1 \\ \beta & \bar{\beta} & 1 \\ \gamma & \bar{\gamma} & 1 \end{vmatrix} = 0$$

この行列式を展開すると、$\alpha(\bar{\beta} - \bar{\gamma}) - \bar{\alpha}(\beta - \gamma) + (\beta\bar{\gamma} - \bar{\beta}\gamma) = 0$ となり、先ほどの条件と同値です。

⚠️ 落とし穴:行列式の行と列を取り違える

✗ 誤:行列式の書き方を暗記して機械的に適用する

○ 正:「$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数」から出発し、必要に応じて行列式に変換する

行列式の形は便利ですが、意味を忘れると符号ミスの温床になります。常に「比が実数」という幾何的意味に立ち返りましょう。

🔗 外積と面積の関係

上の行列式の値の絶対値を $2$ で割ったものは、3点 $\alpha, \beta, \gamma$ を頂点とする三角形の面積の $2$ 倍に対応します。行列式が $0$ ということは面積が $0$、つまり3点が「潰れた三角形」=一直線上にあることを意味しています。これはベクトルの外積($\mathbb{R}^2$ でのスカラー三重積)の考え方と同じです。

34点が同一円周上にある条件

4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にある(共円である)条件は、円周角の定理を複素数で表現することで得られます。

円周角の定理の複素数版

C-3-6 で学んだように、$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta}$ は点 $z$ から $\alpha$, $\beta$ を見込む角(円周角)に対応します。

4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にあるとき、弦 $\alpha\beta$ に対する円周角は等しいので:

$$\arg\frac{\gamma - \alpha}{\gamma - \beta} = \arg\frac{\delta - \alpha}{\delta - \beta} \quad \text{($\gamma$, $\delta$ が同じ側にある場合)}$$

これは $\dfrac{\gamma - \alpha}{\gamma - \beta} \div \dfrac{\delta - \alpha}{\delta - \beta}$ の偏角が $0$ または $\pi$、すなわちこの値が実数であることを意味します。

📐 共円条件

4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にある(または一直線上にある)条件:

$$\frac{(\gamma - \alpha)(\delta - \beta)}{(\gamma - \beta)(\delta - \alpha)} \in \mathbb{R}$$

※ この値は4点の「複比」と呼ばれます。複比が実数であることが共円(または共線)の条件です。

💡 ここが本質:共円 = 円周角が等しい = 複比が実数

4点が共円である ⇔ 対辺が見込む円周角が等しい ⇔ 複比が実数。

これは円周角の定理を複素数の言葉で言い換えたものです。「共線 = 比が実数」の自然な一般化が「共円 = 複比が実数」なのです。

⚠️ 落とし穴:「一直線上」も含まれることを忘れる

✗ 誤:複比が実数なら4点は必ず同一円周上にある

○ 正:4点が一直線上にある場合も複比は実数になる(直線は「半径無限大の円」)

複比が実数であることは「同一円周上 または 一直線上」を意味します。円と直線を区別したい場合は、追加の確認が必要です。

4複比 ── 共線と共円を統一する道具

複比(cross ratio)は、4つの複素数に対して定義される量で、射影幾何学の基本概念です。

📐 複比の定義

4つの複素数 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ の複比:

$$(\alpha, \beta; \gamma, \delta) = \frac{(\alpha - \gamma)(\beta - \delta)}{(\alpha - \delta)(\beta - \gamma)}$$

※ 定義は文献によって順序が異なることがあります。入試では定義が問題文中に与えられるので、その定義に従いましょう。

複比の重要な性質

複比がメビウス変換で不変であるという点が、最も重要な性質です。

$w = \dfrac{az + b}{cz + d}$ で $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ がそれぞれ $\alpha', \beta', \gamma', \delta'$ に写されるとき:

$$(\alpha', \beta'; \gamma', \delta') = (\alpha, \beta; \gamma, \delta)$$

▷ 複比のメビウス不変性の直観的理解

メビウス変換は「円と直線の全体」を保存するので、4点が共円(または共線)であれば、変換後も共円(または共線)です。

複比が実数であること = 共円(または共線)であることなので、「共円性を保存する」=「複比の実数性を保存する」です。実は複比の値そのものが保存されるのです。

証明は $w = \dfrac{az+b}{cz+d}$ を代入して各因子を計算し、$ad - bc$ の因子が約分されることを確認すれば得られます。

💡 ここが本質:メビウス変換の不変量 = 複比

メビウス変換で保存される量(不変量)が複比です。角度や距離はメビウス変換で変わりますが、複比は変わりません。

高校数学では「複比が実数かどうか」が共円判定に使えるという点が最も実用的です。

⚠️ 落とし穴:複比の順序を間違える

✗ 誤:4点の順番を適当に入れて複比を計算する

○ 正:複比は4点の順序に依存する。順序を入れ替えると一般に値が変わる

ただし「複比が実数かどうか」は4点の順序に依存しません(順序を変えると複比は変わりますが、実数であることは保存されます)。共円判定には順序を気にしなくてよいのです。

🔗 射影幾何と複比

射影幾何学では、射影変換(メビウス変換の一般化)で保存される量は複比だけです。つまり「長さ」「角度」「比」は射影変換で保存されませんが、「複比」は保存される ── この事実が射影幾何の基礎を成しています。大学数学の射影幾何学では、複比を出発点として多くの美しい定理が証明されます。

5共線・共円条件の応用

共線条件と共円条件を入試問題で活用するための典型パターンを整理します。

パターン1:3点が一直線上にあることの証明

$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ を計算して実数であることを示します。具体的には、この値の虚部が $0$ であることを確認するか、$w = \bar{w}$ を示します。

パターン2:4点が同一円周上にあることの証明

$\dfrac{(\gamma - \alpha)(\delta - \beta)}{(\gamma - \beta)(\delta - \alpha)}$ を計算して実数であることを示します。

パターン3:図形の性質の証明

「四角形 $ABCD$ が円に内接する ⇔ 4頂点が共円」という対応を使い、座標を複素数で表して共円条件を確認します。

⚠️ 落とし穴:複素数の計算ミスで「実数でない」と誤判定

✗ 誤:計算の途中で虚部を間違え、「共円ではない」と結論する

○ 正:分母を有理化して実部・虚部を丁寧に計算する。虚部 $= 0$ を確認

共円判定の計算は複雑になりやすいので、$z = x + yi$ に戻して確認するのも有効です。

共線条件と共円条件の比較

判定対象条件幾何的意味
3点 $\alpha, \beta, \gamma$ が共線$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} \in \mathbb{R}$方向が同じまたは反対
4点 $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ が共円$\dfrac{(\gamma-\alpha)(\delta-\beta)}{(\gamma-\beta)(\delta-\alpha)} \in \mathbb{R}$円周角が等しい
🔗 トレミーの定理との関係

4点 $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ が共円のとき、トレミーの定理 $|\alpha - \gamma||\beta - \delta| = |\alpha - \beta||\gamma - \delta| + |\alpha - \delta||\beta - \gamma|$ が成り立ちます。これは複比が実数であること(特に正の実数になる配置)から導くことができ、複素数による証明は座標計算に比べて非常に簡潔です。

まとめ

✅ 確認テスト

Q1. 3点 $1$, $2+i$, $3+2i$ は一直線上にあるか。

▶ 答えを見る
$\dfrac{(3+2i) - 1}{(2+i) - 1} = \dfrac{2+2i}{1+i} = \dfrac{(2+2i)(1-i)}{(1+i)(1-i)} = \dfrac{2-2i+2i-2i^2}{2} = \dfrac{4}{2} = 2$。実数なので一直線上にある。

Q2. 共線条件を偏角で表すとどうなるか。

▶ 答えを見る
$\arg\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = 0$ または $\pi$。つまり $\alpha$ から $\beta$, $\gamma$ への方向が同じか反対。

Q3. 4点 $0, 1, i, 1+i$ は同一円周上にあるか。

▶ 答えを見る
複比 $\dfrac{(i-0)(1+i-1)}{(i-1)(1+i-0)} = \dfrac{i \cdot i}{(i-1)(1+i)} = \dfrac{-1}{(i-1)(1+i)}$。$(i-1)(1+i) = i + i^2 - 1 - i = -2$ より $\dfrac{-1}{-2} = \dfrac{1}{2}$。実数なので共円(実際、これは正方形の4頂点で、外接円上にある)。

Q4. 複比のメビウス不変性とは何か。

▶ 答えを見る
4点にメビウス変換 $w = \dfrac{az+b}{cz+d}$ を施しても、複比の値は変わらないという性質。

Q5. $\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が純虚数のとき、$\angle\alpha$ は何度か。

▶ 答えを見る
$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が純虚数なら偏角は $\pm\dfrac{\pi}{2}$ なので、$\alpha$ における $\beta$ と $\gamma$ のなす角は $90°$。つまり $\angle\beta\alpha\gamma = 90°$。

入試問題演習

問題 1 LEVEL A 共線判定

$\alpha = 1 + 2i$, $\beta = 3 + 5i$, $\gamma = -1 - i$ とする。3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にあることを示せ。

▶ 解答を表示
解答

$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \dfrac{(-1-i) - (1+2i)}{(3+5i) - (1+2i)} = \dfrac{-2 - 3i}{2 + 3i}$

分母を有理化:$\dfrac{(-2-3i)(2-3i)}{(2+3i)(2-3i)} = \dfrac{-4+6i-6i+9i^2}{4+9} = \dfrac{-4-9}{13} = \dfrac{-13}{13} = -1$

$-1$ は実数なので、3点は一直線上にある。

解説

方針:複素数の極形式と偏角の性質を活用する。

数学的帰納法や背理法など、適切な証明手法を選択する。

採点ポイント
  • 比の設定 … 3点
  • 有理化の計算 … 4点
  • 実数であることの確認と結論 … 3点
  • 比の設定 … 3点
  • 有理化の計算 … 4点
  • 実数であることの確認と結論 … 3点