3点が一直線上にあるか(共線)、4点が同一円周上にあるか(共円)── これらの判定は幾何学の基本問題ですが、複素数を使うと驚くほど簡潔に記述できます。偏角の条件、そして大学数学にもつながる「複比」の概念を通じて、図形の位置関係を代数的に判定する力を身につけましょう。
C-3-7 で見たように、3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある(共線である)条件は、$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であることでした。この条件を偏角で表現してみましょう。
$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であるとは、この複素数の偏角が $0$ または $\pi$(つまり正の実数か負の実数)であることを意味します。
3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある
$$\Longleftrightarrow \quad \arg\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = 0 \text{ または } \pi$$
$$\Longleftrightarrow \quad \frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} \in \mathbb{R}$$
※ 幾何的には「$\alpha$ から $\beta$ への方向と $\alpha$ から $\gamma$ への方向が同じ(または反対)」ということです。
$\arg\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \arg(\gamma - \alpha) - \arg(\beta - \alpha)$ は、$\alpha$ から見た $\beta$ と $\gamma$ の方向の差です。この差が $0$(同じ方向)か $\pi$(反対方向)であれば、3点は一直線上にあります。
偏角の差が $0$ でも $\pi$ でもなければ、3点は三角形を作ります。
✗ 誤:$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数かどうかを調べれば常にOK
○ 正:$\alpha = \beta$ のとき分母が $0$ になるので、3点が異なることを前提に議論する必要がある
共線条件の適用にあたっては、3点が相異なることを事前に確認しましょう。
偏角による条件は直観的ですが、計算では「$w$ が実数 $\Leftrightarrow$ $w = \bar{w}$」を使った代数的な表現の方が便利です。
3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にある条件:
$$\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \overline{\left(\frac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}\right)} = \frac{\bar{\gamma} - \bar{\alpha}}{\bar{\beta} - \bar{\alpha}}$$
これを整理すると:
$$(\gamma - \alpha)(\bar{\beta} - \bar{\alpha}) = (\bar{\gamma} - \bar{\alpha})(\beta - \alpha)$$
※ 行列式の形でも書けます(後述)。
共線条件は、次の行列式が $0$ であることとも同値です。
$$\begin{vmatrix} \alpha & \bar{\alpha} & 1 \\ \beta & \bar{\beta} & 1 \\ \gamma & \bar{\gamma} & 1 \end{vmatrix} = 0$$
この行列式を展開すると、$\alpha(\bar{\beta} - \bar{\gamma}) - \bar{\alpha}(\beta - \gamma) + (\beta\bar{\gamma} - \bar{\beta}\gamma) = 0$ となり、先ほどの条件と同値です。
✗ 誤:行列式の書き方を暗記して機械的に適用する
○ 正:「$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数」から出発し、必要に応じて行列式に変換する
行列式の形は便利ですが、意味を忘れると符号ミスの温床になります。常に「比が実数」という幾何的意味に立ち返りましょう。
上の行列式の値の絶対値を $2$ で割ったものは、3点 $\alpha, \beta, \gamma$ を頂点とする三角形の面積の $2$ 倍に対応します。行列式が $0$ ということは面積が $0$、つまり3点が「潰れた三角形」=一直線上にあることを意味しています。これはベクトルの外積($\mathbb{R}^2$ でのスカラー三重積)の考え方と同じです。
4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にある(共円である)条件は、円周角の定理を複素数で表現することで得られます。
C-3-6 で学んだように、$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta}$ は点 $z$ から $\alpha$, $\beta$ を見込む角(円周角)に対応します。
4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にあるとき、弦 $\alpha\beta$ に対する円周角は等しいので:
$$\arg\frac{\gamma - \alpha}{\gamma - \beta} = \arg\frac{\delta - \alpha}{\delta - \beta} \quad \text{($\gamma$, $\delta$ が同じ側にある場合)}$$
これは $\dfrac{\gamma - \alpha}{\gamma - \beta} \div \dfrac{\delta - \alpha}{\delta - \beta}$ の偏角が $0$ または $\pi$、すなわちこの値が実数であることを意味します。
4点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ が同一円周上にある(または一直線上にある)条件:
$$\frac{(\gamma - \alpha)(\delta - \beta)}{(\gamma - \beta)(\delta - \alpha)} \in \mathbb{R}$$
※ この値は4点の「複比」と呼ばれます。複比が実数であることが共円(または共線)の条件です。
4点が共円である ⇔ 対辺が見込む円周角が等しい ⇔ 複比が実数。
これは円周角の定理を複素数の言葉で言い換えたものです。「共線 = 比が実数」の自然な一般化が「共円 = 複比が実数」なのです。
✗ 誤:複比が実数なら4点は必ず同一円周上にある
○ 正:4点が一直線上にある場合も複比は実数になる(直線は「半径無限大の円」)
複比が実数であることは「同一円周上 または 一直線上」を意味します。円と直線を区別したい場合は、追加の確認が必要です。
複比(cross ratio)は、4つの複素数に対して定義される量で、射影幾何学の基本概念です。
4つの複素数 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$, $\delta$ の複比:
$$(\alpha, \beta; \gamma, \delta) = \frac{(\alpha - \gamma)(\beta - \delta)}{(\alpha - \delta)(\beta - \gamma)}$$
※ 定義は文献によって順序が異なることがあります。入試では定義が問題文中に与えられるので、その定義に従いましょう。
複比がメビウス変換で不変であるという点が、最も重要な性質です。
$w = \dfrac{az + b}{cz + d}$ で $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ がそれぞれ $\alpha', \beta', \gamma', \delta'$ に写されるとき:
$$(\alpha', \beta'; \gamma', \delta') = (\alpha, \beta; \gamma, \delta)$$
メビウス変換は「円と直線の全体」を保存するので、4点が共円(または共線)であれば、変換後も共円(または共線)です。
複比が実数であること = 共円(または共線)であることなので、「共円性を保存する」=「複比の実数性を保存する」です。実は複比の値そのものが保存されるのです。
証明は $w = \dfrac{az+b}{cz+d}$ を代入して各因子を計算し、$ad - bc$ の因子が約分されることを確認すれば得られます。
メビウス変換で保存される量(不変量)が複比です。角度や距離はメビウス変換で変わりますが、複比は変わりません。
高校数学では「複比が実数かどうか」が共円判定に使えるという点が最も実用的です。
✗ 誤:4点の順番を適当に入れて複比を計算する
○ 正:複比は4点の順序に依存する。順序を入れ替えると一般に値が変わる
ただし「複比が実数かどうか」は4点の順序に依存しません(順序を変えると複比は変わりますが、実数であることは保存されます)。共円判定には順序を気にしなくてよいのです。
射影幾何学では、射影変換(メビウス変換の一般化)で保存される量は複比だけです。つまり「長さ」「角度」「比」は射影変換で保存されませんが、「複比」は保存される ── この事実が射影幾何の基礎を成しています。大学数学の射影幾何学では、複比を出発点として多くの美しい定理が証明されます。
共線条件と共円条件を入試問題で活用するための典型パターンを整理します。
$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ を計算して実数であることを示します。具体的には、この値の虚部が $0$ であることを確認するか、$w = \bar{w}$ を示します。
$\dfrac{(\gamma - \alpha)(\delta - \beta)}{(\gamma - \beta)(\delta - \alpha)}$ を計算して実数であることを示します。
「四角形 $ABCD$ が円に内接する ⇔ 4頂点が共円」という対応を使い、座標を複素数で表して共円条件を確認します。
✗ 誤:計算の途中で虚部を間違え、「共円ではない」と結論する
○ 正:分母を有理化して実部・虚部を丁寧に計算する。虚部 $= 0$ を確認
共円判定の計算は複雑になりやすいので、$z = x + yi$ に戻して確認するのも有効です。
| 判定対象 | 条件 | 幾何的意味 |
|---|---|---|
| 3点 $\alpha, \beta, \gamma$ が共線 | $\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} \in \mathbb{R}$ | 方向が同じまたは反対 |
| 4点 $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ が共円 | $\dfrac{(\gamma-\alpha)(\delta-\beta)}{(\gamma-\beta)(\delta-\alpha)} \in \mathbb{R}$ | 円周角が等しい |
4点 $\alpha, \beta, \gamma, \delta$ が共円のとき、トレミーの定理 $|\alpha - \gamma||\beta - \delta| = |\alpha - \beta||\gamma - \delta| + |\alpha - \delta||\beta - \gamma|$ が成り立ちます。これは複比が実数であること(特に正の実数になる配置)から導くことができ、複素数による証明は座標計算に比べて非常に簡潔です。
Q1. 3点 $1$, $2+i$, $3+2i$ は一直線上にあるか。
Q2. 共線条件を偏角で表すとどうなるか。
Q3. 4点 $0, 1, i, 1+i$ は同一円周上にあるか。
Q4. 複比のメビウス不変性とは何か。
Q5. $\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha}$ が純虚数のとき、$\angle\alpha$ は何度か。
$\alpha = 1 + 2i$, $\beta = 3 + 5i$, $\gamma = -1 - i$ とする。3点 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が一直線上にあることを示せ。
$\dfrac{\gamma - \alpha}{\beta - \alpha} = \dfrac{(-1-i) - (1+2i)}{(3+5i) - (1+2i)} = \dfrac{-2 - 3i}{2 + 3i}$
分母を有理化:$\dfrac{(-2-3i)(2-3i)}{(2+3i)(2-3i)} = \dfrac{-4+6i-6i+9i^2}{4+9} = \dfrac{-4-9}{13} = \dfrac{-13}{13} = -1$
$-1$ は実数なので、3点は一直線上にある。
方針:複素数の極形式と偏角の性質を活用する。
数学的帰納法や背理法など、適切な証明手法を選択する。