複素数平面の基本(極形式・回転・内分外分・三角形の性質)を一通り学んだ今、いよいよ応用問題に挑みます。入試では「$|z|$ の最大最小」「偏角の条件から図形を読む」「$w = f(z)$ で描かれる軌跡」といったパターンが頻出します。これらの問題を通して、複素数平面の道具立てを自在に使いこなす力を養いましょう。
「条件を満たす複素数 $z$ に対して $|z|$ や $|z - \alpha|$ の最大・最小を求めよ」── これは入試で最も出題頻度の高い複素数平面の応用問題です。
複素数の絶対値には三角不等式が成り立ちます:
$$\bigl||z_1| - |z_2|\bigr| \le |z_1 + z_2| \le |z_1| + |z_2|$$
$$\bigl||z_1| - |z_2|\bigr| \le |z_1 - z_2| \le |z_1| + |z_2|$$
等号成立条件:上の式は $z_1$ と $z_2$ が同じ向き(右辺)or 逆向き(左辺)のとき。
しかし、条件が複雑な場合は三角不等式だけでは不十分なことが多く、図形的な解釈が不可欠です。
$|z|$ は複素数平面上で点 $z$ と原点 $O$ の距離にほかなりません。$|z - \alpha|$ は点 $z$ と点 $\alpha$ の距離です。したがって、条件で定まる点 $z$ の軌跡(直線、円、弧など)を描き、そこから原点や $\alpha$ までの距離の最大・最小を求めるのが王道です。
$|z|$ の最大最小は「点 $z$ が動く領域から原点までの距離の最大最小」です。条件を図形として可視化し、原点からの距離が最大・最小になる点を幾何的に求めます。
$z$ が円 $|z - \alpha| = r$ 上を動くとき、$|z|$ の最大値は $|\alpha| + r$、最小値は $\bigl||\alpha| - r\bigr|$ です。これは原点と円の中心 $\alpha$ を結ぶ直線上の点で実現されます。
点 $z$ は中心 $2i$、半径 $1$ の円上を動きます。$|z + 1| = |z - (-1)|$ は点 $z$ と点 $-1$ の距離です。
点 $-1$ と中心 $2i$ の距離は $|-1 - 2i| = \sqrt{1 + 4} = \sqrt{5}$ です。よって:
$$|z + 1|_{\max} = \sqrt{5} + 1, \quad |z + 1|_{\min} = \sqrt{5} - 1$$
✗ 誤:$|z - \alpha| = r$ のとき $|z|$ の最小値は $|\alpha| - r$ と機械的に答える
○ 正:$|\alpha| - r < 0$ の場合(原点が円の内部にある場合)は最小値 $0$ で、$z = 0$ が円上にあるときに実現
$|\alpha| \le r$ のとき、原点が円の内部または周上にあるため、$|z|$ の最小値は $0$($|\alpha| = r$ のとき)または $r - |\alpha|$ ではなく、正しくは $\max(0,\; |\alpha| - r)$ です。ただし原点が円の内部にあれば最小値は $0$ ではなく $r - |\alpha|$...いえ、$|z|$ の最小値は $\bigl||\alpha| - r\bigr|$ で統一的に書けます。
✗ 誤:$|z|^2$ の最大最小を求めて、そのまま答えとする
○ 正:$|z|^2$ の最大最小を求めたあと、$|z| \ge 0$ なので平方根を取って $|z|$ の最大最小を求める
$|z|^2 = z\bar{z}$ は計算しやすいため先に $|z|^2$ を求めることが多いですが、最終的な答えは平方根を取り忘れないようにしましょう。
大学数学では「制約条件のもとでの最大最小」をラグランジュの未定乗数法で体系的に扱います。$|z - \alpha| = r$ の制約下で $|z|$ を最大化する問題は、$x^2 + y^2$ を $(x - a)^2 + (y - b)^2 = r^2$ の制約下で最適化する問題と同値であり、未定乗数法の典型例です。
偏角($\arg$)の条件は、複素数平面上の角度の情報を表しています。偏角を使いこなすことで、弧や扇形、接線方向などの図形的条件を自在に扱えるようになります。
$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta} = \theta$($\theta$ は定数)という条件は、点 $z$ から $\alpha$, $\beta$ を見込む角が $\theta$ であることを意味します。これは円弧の条件(円周角の定理の逆)にほかなりません。
$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta} = \theta$ を満たす点 $z$ の軌跡は:
$\theta = \dfrac{\pi}{2}$ のとき: $\alpha$, $\beta$ を直径の両端とする円(の半円弧)
$\theta \neq \dfrac{\pi}{2}$ のとき: $\alpha$, $\beta$ を通る円の弧
※ $\theta$ の値によって弧の「側」が決まります(向きに注意)。
$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta}$ は、ベクトル $z - \beta$ からベクトル $z - \alpha$ への回転角です。これは「点 $z$ から線分 $\alpha\beta$ を見込む角」に対応します。
円周角の定理は「同じ弧に対する円周角は一定」と述べていますから、この偏角条件はまさに円周角一定の条件であり、点 $z$ は円弧上を動きます。
$\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta} = 0$ のとき、$\dfrac{z - \alpha}{z - \beta}$ は正の実数であり、$z$ は直線 $\alpha\beta$ 上の $\alpha$ と $\beta$ の「外側」にあります。$\arg = \pi$ のとき、$\dfrac{z - \alpha}{z - \beta}$ は負の実数であり、$z$ は線分 $\alpha\beta$ 上($\alpha, \beta$ の間)にあります。
✗ 誤:$\arg z = \dfrac{\pi}{4}$ と $\arg z = \dfrac{\pi}{4} + 2\pi$ を別の条件として扱う
○ 正:偏角は $2\pi$ の整数倍の不定性があるので、$\arg$ は通常 $(-\pi, \pi]$ や $[0, 2\pi)$ の主値で考える
入試では主値を $[0, 2\pi)$ で取ることが多いですが、問題文で指定がなければ明記しましょう。
「$z$ が円上を動くとき、$\arg z$ の最大値・最小値を求めよ」── この問題は、原点から円への接線の方向を求めることに帰着します。原点と円の中心を結ぶ直線から左右に振れる角度が、$\arg z$ の変動幅を決めます。
$z = x + yi$ の偏角は $\arg z = \arctan\dfrac{y}{x}$($x > 0$ のとき)ですが、一般には象限を考慮した $\operatorname{atan2}(y, x)$ を使います。大学や工学ではこの $\operatorname{atan2}$ 関数が標準的に用いられます。
「$z$ がある軌跡を描くとき、$w = f(z)$ はどんな軌跡を描くか」── これは複素関数論の入口であり、入試でも頻出のテーマです。
$w = \alpha z + \beta$($\alpha, \beta$ は複素定数、$\alpha \neq 0$)は回転・拡大と平行移動の合成です。この変換で:
$w = \dfrac{1}{z}$ は反転(inversion)と呼ばれる変換です。$z = r e^{i\theta}$ のとき $w = \dfrac{1}{r} e^{-i\theta}$ なので、絶対値が逆数になり偏角が符号反転します。
$w = \dfrac{1}{z}$(または $w = \dfrac{1}{\bar{z}}$)による反転では:
原点を通らない円 → 原点を通らない円
原点を通る円 → 直線(原点を通らない)
原点を通らない直線 → 原点を通る円
この「円と直線が入れ替わる」性質が、反転変換の最も重要な特徴です。
$z$ が虚軸に平行な直線 $\operatorname{Re}(z) = a$($a \neq 0$)上を動くとき、$w = \dfrac{1}{z}$ の軌跡を求めましょう。$z = a + ti$($t$ は実数パラメータ)とおくと:
$$w = \frac{1}{a + ti} = \frac{a - ti}{a^2 + t^2}$$
$u = \operatorname{Re}(w) = \dfrac{a}{a^2 + t^2}$、$v = \operatorname{Im}(w) = \dfrac{-t}{a^2 + t^2}$ より $u^2 + v^2 = \dfrac{1}{a^2 + t^2}$ すなわち $u = a(u^2 + v^2)$。
整理すると $\left(u - \dfrac{1}{2a}\right)^2 + v^2 = \dfrac{1}{4a^2}$ となり、原点を通る円が得られます。
✗ 誤:$w = \dfrac{1}{z}$ と $w = \dfrac{1}{\bar{z}}$ は同じ変換だと思い込む
○ 正:$w = \dfrac{1}{\bar{z}}$ は反転($|w| = \dfrac{1}{|z|}$)と実軸に関する対称移動の合成。$w = \dfrac{1}{z}$ は反転と実軸対称の合成に偏角反転が加わる
問題で $w = \dfrac{1}{\bar{z}}$ が指定されている場合は、$w\bar{z} = 1$ すなわち $\bar{w} z = 1$ を使って $z = \dfrac{1}{\bar{w}}$ と変換すると計算しやすくなります。
$w = \dfrac{az + b}{cz + d}$($ad - bc \neq 0$)はメビウス変換(一次分数変換)と呼ばれ、大学の複素関数論で体系的に学びます。$w = \dfrac{1}{z}$ はその特殊な場合($a=0, b=1, c=1, d=0$)です。メビウス変換は「円円対応」を保つ美しい性質を持ちます。
複素数平面の応用問題は、パターンを整理しておくと見通しが良くなります。以下に入試で出題される代表的なパターンを分類します。
| パターン | 典型的な設定 | 核心の考え方 |
|---|---|---|
| 最大最小 | $|z - \alpha| = r$ で $|z|$ の範囲 | 軌跡を描いて距離を測る |
| 偏角条件 | $\arg\dfrac{z-\alpha}{z-\beta} = \theta$ | 円周角の定理(円弧の条件) |
| 軌跡(1次変換) | $w = \alpha z + \beta$ | 回転拡大+平行移動で像を求める |
| 軌跡(反転) | $w = \dfrac{1}{z}$ や $w = \dfrac{1}{\bar{z}}$ | 円と直線の対応に注目 |
| 共線条件 | 3点が同一直線上 | $\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1}$ が実数 |
| 垂直条件 | 2つのベクトルが垂直 | $\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1}$ が純虚数 |
応用問題では、設定が複雑でも結局は上記パターンの組み合わせです。問題文に $|z|$, $\arg$, $w = f(z)$ のどれが含まれているかを見極め、対応するパターンに落とし込むのが第一歩です。
パターンが判断できれば、あとは計算を正確に実行するだけです。「何をすればいいかわからない」状態を避けるために、パターン判別力を鍛えましょう。
入試の難問では、上記パターンの複合が出題されます。例えば「$z$ が円上を動くとき $w = \dfrac{1}{z}$ の軌跡を求め、さらに $|w - 1|$ の最大値を求めよ」のように、軌跡を求めた後に最大最小を問う問題です。
このような複合問題では、ステップを分けて1つずつ処理することが重要です:
✗ 誤:$z = e^{i\theta}$($0 \le \theta < 2\pi$)を代入して $w$ の方程式を求めたが、$w$ の取りうる範囲(弧なのか全円なのか)を確認しない
○ 正:$z$ が円の全周を動くのか一部の弧を動くのかによって、$w$ の軌跡も変わる。パラメータの範囲を最後まで追跡する
Q1. $z$ が円 $|z - \alpha| = r$ 上を動くとき、$|z|$ の最大値と最小値を $|\alpha|$ と $r$ で表せ。
Q2. $\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta} = \theta$ が表す図形は何か。
Q3. 写像 $w = \dfrac{1}{z}$ で $|z| = 1$(単位円)はどんな図形に写るか。
Q4. 三角不等式 $|z_1 + z_2| \le |z_1| + |z_2|$ の等号が成立する条件は何か。
Q5. $\arg\dfrac{z - \alpha}{z - \beta} = \dfrac{\pi}{2}$ のとき、$z$ の軌跡はどんな図形か。
複素数平面の応用問題の代表的な出題パターンを実戦形式で演習します。パターンの判別と計算力を確認しましょう。
$|z - 3 - 4i| = 2$ を満たす複素数 $z$ に対して、$|z|$ の最大値と最小値を求めよ。
$z$ は中心 $3 + 4i$、半径 $2$ の円上を動く。
中心と原点の距離は $|3 + 4i| = \sqrt{9 + 16} = 5$。
$|z|$ は原点と $z$ の距離なので:
$$|z|_{\max} = 5 + 2 = 7, \quad |z|_{\min} = 5 - 2 = 3$$
方針:複素数の極形式と偏角の性質を活用する。
増減表を作成して極値を調べる。