第7章 ベクトル

ベクトルと図形(四角形・円)
─ 平行四辺形の条件から円の方程式まで

三角形に続いて、四角形と円をベクトルで扱います。平行四辺形の成立条件、四角形の対角線の性質、そして円のベクトル方程式を学びましょう。「4点が同一円周上にある条件(共円条件)」は入試頻出のテーマです。ベクトルによる記述の統一性と威力を、さらに実感できるはずです。

1平行四辺形の条件 ─ なぜベクトルが相性抜群なのか

四角形 $\text{ABCD}$ が平行四辺形であるための条件は、ベクトルで書くと驚くほど簡潔になります。

📐 平行四辺形の条件(ベクトル)

四角形 $\text{ABCD}$ が平行四辺形 $\Leftrightarrow$ $\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$

位置ベクトルで書くと:$\vec{b} - \vec{a} = \vec{c} - \vec{d}$ すなわち $\vec{a} + \vec{c} = \vec{b} + \vec{d}$

※ 最後の形は「対角線の中点が一致する」ことを意味します。$\dfrac{\vec{a}+\vec{c}}{2} = \dfrac{\vec{b}+\vec{d}}{2}$

💡 ここが本質:平行四辺形の3つの同値条件

次の3条件はすべて同値であり、どれか1つを示せば平行四辺形が確定します:

(1) $\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$(対辺が平行かつ等長)

(2) $\vec{a} + \vec{c} = \vec{b} + \vec{d}$(対角線の中点が一致)

(3) $\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$ かつ $\overrightarrow{\text{AD}} = \overrightarrow{\text{BC}}$(両方の対辺が等しい)

条件 (2) は「中点の一致」を示すだけでよいので、入試では最も使いやすい形です。

ひし形・長方形・正方形は平行四辺形の特殊ケースです。追加条件をベクトルで整理しましょう。

図形平行四辺形 + 追加条件ベクトルによる条件
ひし形隣り合う辺が等しい$|\overrightarrow{\text{AB}}| = |\overrightarrow{\text{AD}}|$
長方形1つの角が $90°$$\overrightarrow{\text{AB}} \cdot \overrightarrow{\text{AD}} = 0$
正方形ひし形かつ長方形$|\overrightarrow{\text{AB}}| = |\overrightarrow{\text{AD}}|$ かつ $\overrightarrow{\text{AB}} \cdot \overrightarrow{\text{AD}} = 0$
⚠️ 落とし穴:頂点の順番に注意

✗ 誤:$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{CD}}$ なら平行四辺形(頂点の巡回順がずれている)

○ 正:$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$($\text{AB}$ に対応するのは $\text{DC}$、向きが同じ)

$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{CD}}$ だと $\text{AB} \parallel \text{CD}$ で向きも同じですが、四角形 $\text{ABCD}$ は平行四辺形にはなりません($\text{ABDC}$ が平行四辺形になります)。頂点の順番を常に意識しましょう。

2四角形の対角線とその交点

一般の四角形 $\text{ABCD}$ において、対角線 $\text{AC}$ と $\text{BD}$ の交点 $\text{P}$ を求める問題は、2直線の交点問題に帰着します。

対角線 $\text{AC}$ 上の点:$\vec{p} = (1-s)\vec{a} + s\vec{c}$

対角線 $\text{BD}$ 上の点:$\vec{p} = (1-t)\vec{b} + t\vec{d}$

等しいとおいて $\vec{a}$, $\vec{b}$, $\vec{c}$($\vec{d}$ は $\vec{a}$, $\vec{b}$, $\vec{c}$ で表せる場合が多い)の係数を比較し、$s, t$ を求めます。

中点連結とベクトル

四角形 $\text{ABCD}$ の各辺の中点を順に $\text{E}$, $\text{F}$, $\text{G}$, $\text{H}$ とすると、$\text{EFGH}$ は常に平行四辺形になります。

▷ 中点四角形が平行四辺形であることの証明

$\vec{e} = \dfrac{\vec{a}+\vec{b}}{2}$, $\vec{f} = \dfrac{\vec{b}+\vec{c}}{2}$, $\vec{g} = \dfrac{\vec{c}+\vec{d}}{2}$, $\vec{h} = \dfrac{\vec{d}+\vec{a}}{2}$

$\overrightarrow{\text{EF}} = \vec{f} - \vec{e} = \dfrac{\vec{c} - \vec{a}}{2}$

$\overrightarrow{\text{HG}} = \vec{g} - \vec{h} = \dfrac{\vec{c} - \vec{a}}{2}$

$\overrightarrow{\text{EF}} = \overrightarrow{\text{HG}}$ なので $\text{EFGH}$ は平行四辺形です。

さらに $\overrightarrow{\text{EF}} = \dfrac{1}{2}\overrightarrow{\text{AC}}$ なので、中点四角形の辺はもとの対角線の半分に平行です。

💡 ここが本質:どんな四角形でも中点四角形は平行四辺形

凸でも凹でも交差していても、4点が定める「四角形」の各辺の中点を結ぶと平行四辺形が得られます。これは中点連結定理のベクトルによる一般化であり、ベクトルの計算が図形の性質を自動的に証明してくれる好例です。

⚠️ 落とし穴:「四角形」と「四辺形」の区別

✗ 誤:4点が一直線上にある場合も四角形として扱う

○ 正:4点のうち3点以上が一直線上にある場合は四角形を成さない

上の定理が成り立つのは4点が「一般の位置」にある場合です。3点以上が共線のときは退化したケースとなります。

3円のベクトル方程式 ─ 「中心からの距離が一定」

円は「ある点(中心)から一定距離(半径)にある点の集合」です。この定義をベクトルで直接表現します。

📐 円のベクトル方程式

中心 $\text{C}(\vec{c})$、半径 $r$ の円:

$$|\vec{p} - \vec{c}| = r \quad \Leftrightarrow \quad (\vec{p} - \vec{c}) \cdot (\vec{p} - \vec{c}) = r^2$$

※ 2つ目の形は、大きさの条件を内積に書き換えたものです。座標で展開すると $(x-a)^2 + (y-b)^2 = r^2$ に一致します。

直径が与えられた円のベクトル方程式

2点 $\text{A}(\vec{a})$, $\text{B}(\vec{b})$ を直径の両端とする円上の点 $\text{P}$ は、$\angle\text{APB} = 90°$ を満たします。これを内積で表すと:

📐 直径に対する円のベクトル方程式

$$\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0 \quad \Leftrightarrow \quad (\vec{a} - \vec{p}) \cdot (\vec{b} - \vec{p}) = 0$$

※ タレスの定理(半円に対する円周角は $90°$)のベクトル表現です。

💡 ここが本質:円の方程式は「内積 $= 0$」で書ける

直径の両端 $\text{A}$, $\text{B}$ が与えられた場合、円の方程式は $\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0$ という内積の条件で書けます。これは「$\text{P}$ から見て $\text{A}$ と $\text{B}$ が垂直方向にある」ということであり、中心や半径を求めなくても円を表現できる利点があります。

⚠️ 落とし穴:$\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0$ に $\text{A}$, $\text{B}$ 自身は含まれない

✗ 誤:$\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0$ を満たす点の集合が「直径 $\text{AB}$ の円」全体

○ 正:$\text{P} = \text{A}$ や $\text{P} = \text{B}$ のときは $\vec{0}$ が含まれるので成り立つが、厳密にはこれらの点で「角度」は定義されない

式としては $\text{A}$, $\text{B}$ を代入すると $\vec{0} \cdot \overrightarrow{\text{AB}} = 0$ で成立します。点の集合としては $\text{A}$, $\text{B}$ を含みますが、幾何学的には直径の端点では円周角が定義されません。

🔬 深掘り:アポロニウスの円

2点 $\text{A}$, $\text{B}$ からの距離の比が一定($\text{PA} : \text{PB} = m : n$, $m \neq n$)である点 $\text{P}$ の軌跡は円になります。これをアポロニウスの円と呼び、ベクトルで $|\vec{p} - \vec{a}|^2 : |\vec{p} - \vec{b}|^2 = m^2 : n^2$ と書けます。展開すると中心と半径が $m, n, \vec{a}, \vec{b}$ で求められ、分点公式との関連も見えてきます。

4共円条件 ─ 4点が同一円周上にあるとき

4点 $\text{A}$, $\text{B}$, $\text{C}$, $\text{D}$ が同一円周上にある(共円である)ことをベクトルで表現する方法を学びます。

方べきの定理によるアプローチ

4点が共円であることの古典的な判定法は方べきの定理です。対角線の交点 $\text{P}$ について:

$$\text{PA} \cdot \text{PC} = \text{PB} \cdot \text{PD}$$

が成り立つとき、4点は共円です。ベクトルでは内積を使った定式化が有用です。

内積による共円条件

4点 $\text{A}$, $\text{B}$, $\text{C}$, $\text{D}$ が共円であるための条件は、円周角の定理を利用して次のように表せます。$\text{A}$, $\text{B}$, $\text{C}$ を通る円に $\text{D}$ が乗る条件として考えます。

📐 共円条件(ベクトル)

3点 $\text{A}$, $\text{B}$, $\text{C}$ を通る円の方程式(中心を $\text{O}'$ とする)は:

$$|\vec{p} - \vec{o}'|^2 = R^2$$

この円上に $\text{D}$ があるとき $|\vec{d} - \vec{o}'|^2 = R^2$

3点から外接円の中心 $\vec{o}'$ を求め、$\text{D}$ との距離が $R$ に等しいか確認します。

※ 実用的には、外接円の中心は垂直二等分線の交点として内積の条件から求めます。

⚠️ 落とし穴:3点が一直線上にあると円が定まらない

✗ 誤:任意の3点を通る円が存在する

○ 正:3点が一直線上にないとき、かつそのときに限り、3点を通る円がただ1つ存在する

3点が共線の場合、「円」ではなく「直線」が得られます。共円条件を議論する前に、3点が共線でないことを確認しましょう。

座標を使った共円条件の判定

実際の計算では、4点の座標を用いて $x^2 + y^2 + Dx + Ey + F = 0$ の形に3点を代入して $D, E, F$ を定め、4点目がこの式を満たすかを確認する方法が効率的です。ベクトルとの使い分けが重要になります。

🔬 深掘り:トレミーの定理と共円

四角形 $\text{ABCD}$ が円に内接するとき、トレミーの定理 $\text{AC} \cdot \text{BD} = \text{AB} \cdot \text{CD} + \text{AD} \cdot \text{BC}$ が成り立ちます。逆にこの等式が成り立てば4点は共円です。ベクトルの大きさ(ノルム)を使って各辺の長さを計算すれば、共円の別の判定法が得られます。

5ベクトルで扱う図形問題のパターン整理

ここまで学んだ四角形・円のベクトル表現を、入試で使えるパターンとして整理しましょう。

図形条件ベクトルの条件キーワード
平行四辺形$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$対辺が等しい
ひし形平行四辺形 + $|\overrightarrow{\text{AB}}| = |\overrightarrow{\text{AD}}|$隣辺が等長
長方形平行四辺形 + $\overrightarrow{\text{AB}} \cdot \overrightarrow{\text{AD}} = 0$直交条件
中心 $\vec{c}$, 半径 $r$ の円$|\vec{p} - \vec{c}|^2 = r^2$距離一定
直径 $\text{AB}$ の円$\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0$直角条件
線分の垂直二等分線$|\vec{p} - \vec{a}| = |\vec{p} - \vec{b}|$等距離
💡 ここが本質:図形問題は「3つの道具」で攻略できる

ベクトルによる図形問題の解法は、結局のところ次の3つの道具に集約されます:

(1) 平行条件:$\vec{a} = k\vec{b}$(実数倍なら平行)

(2) 垂直条件:$\vec{a} \cdot \vec{b} = 0$(内積 $0$ なら垂直)

(3) 長さの条件:$|\vec{a}|^2 = \vec{a} \cdot \vec{a}$(大きさは内積で計算)

あらゆる図形の性質は、これら3つの組み合わせで表現・証明できます。

⚠️ 落とし穴:条件を増やしすぎない

✗ 誤:平行四辺形を示すために「$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$ かつ $\overrightarrow{\text{AB}} \parallel \overrightarrow{\text{DC}}$ かつ $|\overrightarrow{\text{AB}}| = |\overrightarrow{\text{DC}}|$」と3つの条件を示す

○ 正:$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$ だけで十分(等しいベクトルは平行かつ等長)

ベクトルが等しいことは、平行かつ等長を自動的に含みます。不必要に多くの条件を示すと減点されることはありませんが、時間の無駄です。

🔬 深掘り:射影幾何とベクトル

平行四辺形は「対辺が平行な四角形」ですが、射影幾何では「平行」は「無限遠点で交わる」ことと同義です。射影幾何の視点では、平行四辺形の2組の対辺の延長はそれぞれ無限遠点で交わり、2つの無限遠点を結ぶ「無限遠直線」が存在します。大学数学ではこの視点により、ユークリッド幾何の定理が射影幾何の特殊ケースとして統一されます。

まとめ

✅ 確認テスト

Q1. 四角形 $\text{ABCD}$ が平行四辺形であるための位置ベクトルの条件は?

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$\vec{a} + \vec{c} = \vec{b} + \vec{d}$(対角線の中点が一致する条件)

Q2. 平行四辺形が長方形であるための追加条件をベクトルで書くと?

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$\overrightarrow{\text{AB}} \cdot \overrightarrow{\text{AD}} = 0$(隣り合う辺が直交する)

Q3. 中心 $(1, 2)$、半径 $3$ の円のベクトル方程式は?

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$|\vec{p} - (1, 2)|^2 = 9$ すなわち $(x-1)^2 + (y-2)^2 = 9$

Q4. 2点 $\text{A}$, $\text{B}$ を直径とする円上の点 $\text{P}$ が満たすベクトルの条件は?

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$\overrightarrow{\text{PA}} \cdot \overrightarrow{\text{PB}} = 0$(直径に対する円周角が $90°$)

Q5. 四角形の各辺の中点を結ぶとどのような図形が得られるか?

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常に平行四辺形。しかも各辺はもとの四角形の対角線の半分に平行です。

入試問題演習

問題 1 LEVEL A 平行四辺形

3点 $\text{A}(1, 3)$, $\text{B}(4, 1)$, $\text{C}(6, 5)$ に対し、四角形 $\text{ABCD}$ が平行四辺形になるように点 $\text{D}$ の座標を求めよ。

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解答

$\overrightarrow{\text{AB}} = \overrightarrow{\text{DC}}$ より $\vec{c} - \vec{d} = \vec{b} - \vec{a}$

$\vec{d} = \vec{c} - (\vec{b} - \vec{a}) = (6, 5) - (3, -2) = (3, 7)$

検算:$\vec{a} + \vec{c} = (7, 8)$, $\vec{b} + \vec{d} = (7, 8)$ ✓

よって $\text{D}(3, 7)$

解説

方針:問題の条件を整理し、段階的に計算を進める。

採点ポイント
  • 平行四辺形の条件の設定 … 3点
  • $\text{D}$ の座標の計算 … 4点
  • 検算 … 3点