第7章 ベクトル

ベクトル方程式(直線)
─ 「通る点」と「進む方向」で直線を決める

直線は「1点と方向」または「2点」で決まります。この幾何学的な事実をベクトルの言葉で表現したものが直線のベクトル方程式です。方向ベクトルによる表現、2点を通る直線、法線ベクトルによる表現という3つの形を学び、座標幾何の直線の方程式との関係を明確にしましょう。

1方向ベクトルによる直線の表現 ─ 出発点+方向

直線は「1点を通り、ある方向に進む」と決まります。点 $\text{A}$ を通り、ベクトル $\vec{d}$($\vec{d} \neq \vec{0}$)に平行な直線上の任意の点 $\text{P}$ は、$\overrightarrow{\text{AP}}$ が $\vec{d}$ の実数倍であることから表現できます。

📐 直線のベクトル方程式(方向ベクトル形)

点 $\text{A}(\vec{a})$ を通り、方向ベクトル $\vec{d}$ に平行な直線:

$$\vec{p} = \vec{a} + t\vec{d} \quad (t \text{ は実数})$$

※ $t$ をパラメータ(媒介変数)と呼びます。$t$ が全実数を動くと、$\text{P}$ は直線上のすべての点を尽くします。

💡 ここが本質:パラメータ $t$ は「出発点からの距離の目盛り」

$\vec{p} = \vec{a} + t\vec{d}$ において、$t = 0$ なら $\text{P} = \text{A}$(出発点)、$t = 1$ なら $\text{P}$ は $\text{A}$ から $\vec{d}$ だけ進んだ点、$t = -1$ なら逆方向に $\vec{d}$ だけ戻った点です。

$t$ は直線上の「位置の目盛り」のような役割を果たし、任意の実数を取ることで直線全体を表します。$t$ の値を指定すれば直線上の1点が定まり、逆に直線上の点を指定すれば $t$ の値が1つ定まります。

方向ベクトル $\vec{d}$ は直線の「傾き」に対応する量です。ただし $\vec{d}$ の定数倍(例えば $2\vec{d}$ や $-\vec{d}$)も同じ直線を表します。方向ベクトルは一意ではなく、平行な零でないベクトルであれば何でもよいのです。

⚠️ 落とし穴:方向ベクトルは一意ではない

✗ 誤:この直線の方向ベクトルは $\vec{d} = (2, 3)$ である(唯一の答えとして書く)

○ 正:$\vec{d} = (2, 3)$ は方向ベクトルの一つ。$(4, 6)$ や $(-2, -3)$ も方向ベクトルである

方向ベクトルは「方向」だけを指定するものなので、長さも向き(正負)も自由です。答案では「方向ベクトルの一つは $\vec{d}$」のように書くとよいでしょう。

22点を通る直線のベクトル方程式

2点 $\text{A}(\vec{a})$, $\text{B}(\vec{b})$ を通る直線は、方向ベクトルとして $\overrightarrow{\text{AB}} = \vec{b} - \vec{a}$ を使えば表現できます。

📐 2点を通る直線のベクトル方程式

2点 $\text{A}(\vec{a})$, $\text{B}(\vec{b})$ を通る直線:

$$\vec{p} = \vec{a} + t(\vec{b} - \vec{a}) = (1 - t)\vec{a} + t\vec{b}$$

※ $t = 0$ で $\text{P} = \text{A}$、$t = 1$ で $\text{P} = \text{B}$ です。$0 < t < 1$ のとき $\text{P}$ は線分 $\text{AB}$ 上にあります。

この式は前回学んだ分点公式と深い関係があります。$t = \dfrac{m}{m+n}$ とおけば $m : n$ の内分点に対応し、$t < 0$ や $t > 1$ は外分点に対応します。

パラメータの範囲と図形の関係

$t$ の範囲$\text{P}$ の位置図形
$t$ は全実数直線 $\text{AB}$ 全体直線
$0 \le t \le 1$$\text{A}$ と $\text{B}$ の間線分 $\text{AB}$
$t \ge 0$$\text{A}$ から $\text{B}$ 方向へ半直線($\text{A}$ を端点)
💡 ここが本質:$s + t = 1$ の制約が「直線上」を意味する

$\vec{p} = s\vec{a} + t\vec{b}$ で $s + t = 1$(つまり $s = 1 - t$)のとき、$\text{P}$ は直線 $\text{AB}$ 上にあります。この「係数の和 $= 1$」という条件がベクトルにおける直線の本質です。

3点 $\text{A}$, $\text{B}$, $\text{C}$ に対して $\vec{p} = s\vec{a} + t\vec{b} + u\vec{c}$($s + t + u = 1$)なら $\text{P}$ は平面 $\text{ABC}$ 上にあります。「係数の和 $= 1$」が次元を決める一般原理なのです。

⚠️ 落とし穴:パラメータの範囲を忘れる

✗ 誤:「線分 $\text{AB}$ 上の点」を求めるのに $t$ の範囲を指定しない

○ 正:線分なら $0 \le t \le 1$、半直線なら $t \ge 0$、直線なら $t$ は任意

ベクトル方程式で図形を表すとき、パラメータの範囲が図形の形を決めます。入試では「線分」「直線」の区別を問う出題が頻出です。

3法線ベクトルによる直線の表現 ─ 垂直条件から

直線を表すもう一つの方法は、直線に垂直なベクトル(法線ベクトル)を使う方法です。これは座標幾何での $ax + by + c = 0$ に直結する重要な表現です。

📐 直線のベクトル方程式(法線ベクトル形)

点 $\text{A}(\vec{a})$ を通り、法線ベクトル $\vec{n}$($\vec{n} \neq \vec{0}$)に垂直な直線:

$$\vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$$

※ $\vec{p} - \vec{a} = \overrightarrow{\text{AP}}$ であり、「$\overrightarrow{\text{AP}}$ が $\vec{n}$ と垂直」という条件を内積で表したものです。

▷ 法線ベクトル形の導出

点 $\text{A}$ を通りベクトル $\vec{n}$ に垂直な直線を考えます。直線上の任意の点 $\text{P}$ について、$\overrightarrow{\text{AP}}$ は $\vec{n}$ と垂直です。

2つのベクトルが垂直 $\Leftrightarrow$ 内積が $0$ なので:

$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{\text{AP}} = 0 \quad \Leftrightarrow \quad \vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$$

$\vec{n} = (a, b)$, $\vec{p} = (x, y)$, $\vec{a} = (x_0, y_0)$ とすれば:

$$a(x - x_0) + b(y - y_0) = 0$$

展開すると $ax + by = ax_0 + by_0$ となり、$c = -(ax_0 + by_0)$ とおけば $ax + by + c = 0$ です。

💡 ここが本質:$ax + by + c = 0$ の $(a, b)$ が法線ベクトル

座標幾何で学んだ直線の方程式 $ax + by + c = 0$ の $x, y$ の係数 $(a, b)$ は、まさにその直線の法線ベクトルです。これは「ベクトル方程式 $\vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$ を成分で書き下した」という関係から明らかです。

例えば $2x + 3y - 6 = 0$ の法線ベクトルは $(2, 3)$、方向ベクトルは法線と垂直な $(3, -2)$ や $(-3, 2)$ です。

方向ベクトルと法線ベクトルの関係

平面上の直線において、方向ベクトル $\vec{d} = (d_1, d_2)$ と法線ベクトル $\vec{n}$ は直交します。$\vec{d}$ の成分を入れ替えて片方の符号を変えれば $\vec{n}$ が得られます:

$$\vec{d} = (d_1, d_2) \quad \Rightarrow \quad \vec{n} = (d_2, -d_1) \text{ または } (-d_2, d_1)$$

⚠️ 落とし穴:法線ベクトルと方向ベクトルの混同

✗ 誤:直線 $3x - 2y + 1 = 0$ の方向ベクトルは $(3, -2)$

○ 正:$(3, -2)$ は法線ベクトル。方向ベクトルは $(2, 3)$

$ax + by + c = 0$ の $(a, b)$ は法線ベクトル(直線に垂直)です。方向ベクトル(直線に平行)が欲しければ、$(b, -a)$ にしましょう。

4ベクトル方程式と座標の方程式の関係

ベクトル方程式と座標幾何の方程式は、同じ直線を異なる「言語」で記述したものです。両者の対応を整理しましょう。

表現ベクトル方程式座標の方程式
方向ベクトル形$\vec{p} = \vec{a} + t\vec{d}$$\dfrac{x - x_0}{d_1} = \dfrac{y - y_0}{d_2}$
2点形$\vec{p} = (1-t)\vec{a} + t\vec{b}$$\dfrac{x - x_1}{x_2 - x_1} = \dfrac{y - y_1}{y_2 - y_1}$
法線ベクトル形$\vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$$ax + by + c = 0$

ベクトル方程式の利点は、座標系に依存しない座標フリーな記述ができることです。座標を設定しなくても幾何学的な議論ができるため、証明問題で特に威力を発揮します。

具体例:座標形式への変換

点 $\text{A}(1, 2)$ を通り方向ベクトル $\vec{d} = (3, -1)$ の直線を考えます。

ベクトル方程式:$\vec{p} = (1, 2) + t(3, -1)$ すなわち $(x, y) = (1 + 3t,\; 2 - t)$

$t$ を消去すると:$t = \dfrac{x - 1}{3} = \dfrac{y - 2}{-1}$ より $-(x - 1) = 3(y - 2)$、整理して $x + 3y - 7 = 0$

法線ベクトルは $(1, 3)$ であり、確かに方向ベクトル $(3, -1)$ と直交します($1 \cdot 3 + 3 \cdot (-1) = 0$)。

🔬 深掘り:3次元空間の直線

3次元空間では直線を $ax + by + c = 0$ のような1本の方程式では表せません(1本の方程式は平面を表す)。しかし、ベクトル方程式 $\vec{p} = \vec{a} + t\vec{d}$ は2次元でも3次元でも同じ形で直線を表せます。これがベクトル方程式の大きな強みであり、空間ベクトルの学習で本格的に活きてきます。

5直線のベクトル方程式の応用 ─ 交点・距離

2直線の交点

2直線 $\vec{p} = \vec{a}_1 + s\vec{d}_1$ と $\vec{p} = \vec{a}_2 + t\vec{d}_2$ の交点は、連立方程式 $\vec{a}_1 + s\vec{d}_1 = \vec{a}_2 + t\vec{d}_2$ を $s, t$ について解くことで求まります。

成分に分けて書くと2元連立1次方程式になり、$\vec{d}_1$ と $\vec{d}_2$ が平行でない限り(つまり1次独立であれば)、ただ1つの解が得られます。

⚠️ 落とし穴:パラメータは各直線で別の文字を使う

✗ 誤:$\vec{a}_1 + t\vec{d}_1 = \vec{a}_2 + t\vec{d}_2$ と同じ $t$ を使う

○ 正:$\vec{a}_1 + s\vec{d}_1 = \vec{a}_2 + t\vec{d}_2$ と別のパラメータ $s, t$ を使う

同じ $t$ を使うと「2直線上で同じパラメータ値の点」しか比較できず、交点が見つからないことがあります。

点と直線の距離

法線ベクトル形を使うと、点と直線の距離を簡潔に表せます。点 $\text{C}(\vec{c})$ から直線 $\vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$ への距離は:

$$d = \frac{|\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})|}{|\vec{n}|}$$

▷ 点と直線の距離の公式の導出

点 $\text{C}$ から直線に下ろした垂線の足を $\text{H}$ とします。$\overrightarrow{\text{AH}}$ は直線上のベクトルなので $\vec{n} \cdot \overrightarrow{\text{AH}} = 0$ です。

$\overrightarrow{\text{AC}} = \overrightarrow{\text{AH}} + \overrightarrow{\text{HC}}$ と分解すると、$\overrightarrow{\text{HC}}$ は $\vec{n}$ 方向のベクトルです。

$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{\text{AC}} = \vec{n} \cdot \overrightarrow{\text{AH}} + \vec{n} \cdot \overrightarrow{\text{HC}} = 0 + |\vec{n}| \cdot |\overrightarrow{\text{HC}}| \cos 0^\circ = |\vec{n}| \cdot d$$

($\overrightarrow{\text{HC}}$ が $\vec{n}$ と逆向きの場合は $\cos 180° = -1$ なので絶対値を取り)

$$d = \frac{|\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})|}{|\vec{n}|}$$

成分表示 $\vec{n} = (a, b)$, $\vec{c} = (x_0, y_0)$ で展開すれば、座標幾何で学んだ $d = \dfrac{|ax_0 + by_0 + c|}{\sqrt{a^2 + b^2}}$ に一致します。

🔬 深掘り:ベクトル方程式は高次元でも万能

点と直線の距離公式 $d = \dfrac{|\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})|}{|\vec{n}|}$ は、3次元空間における「点と平面の距離」にもそのまま拡張できます。法線ベクトルが平面の法線になるだけで、公式の形は全く同じです。ベクトルによる記述は次元を超えた普遍性を持つのです。

⚠️ 落とし穴:距離の公式で絶対値を忘れる

✗ 誤:$d = \dfrac{\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})}{|\vec{n}|}$(絶対値なし)

○ 正:$d = \dfrac{|\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})|}{|\vec{n}|}$(分子に絶対値が必要)

距離は必ず $0$ 以上の値です。内積は符号を持つため、分子には絶対値が必要です。

まとめ

✅ 確認テスト

Q1. 点 $(2, 1)$ を通り方向ベクトル $(1, 3)$ の直線のベクトル方程式は?

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$\vec{p} = (2, 1) + t(1, 3)$ すなわち $(x, y) = (2 + t,\; 1 + 3t)$

Q2. 直線 $5x - 2y + 3 = 0$ の法線ベクトルと方向ベクトルをそれぞれ一つ挙げよ。

▶ 答えを見る
法線ベクトル $(5, -2)$、方向ベクトル $(2, 5)$(成分を入れ替えて片方の符号を変える)

Q3. $\vec{p} = (1-t)\vec{a} + t\vec{b}$ で $0 \le t \le 1$ のとき、$\text{P}$ はどのような図形上にあるか?

▶ 答えを見る
線分 $\text{AB}$ 上。$t = 0$ で $\text{A}$、$t = 1$ で $\text{B}$ です。

Q4. 2直線の交点を求めるとき、パラメータについて注意すべきことは?

▶ 答えを見る
2直線のパラメータには別々の文字(例えば $s$ と $t$)を使う。同じ文字を使うと正しい交点が求まらないことがある。

Q5. 点 $\text{C}(\vec{c})$ から直線 $\vec{n} \cdot (\vec{p} - \vec{a}) = 0$ への距離の公式は?

▶ 答えを見る
$d = \dfrac{|\vec{n} \cdot (\vec{c} - \vec{a})|}{|\vec{n}|}$。分子の絶対値を忘れないこと。

入試問題演習

問題 1 LEVEL A ベクトル方程式

2点 $\text{A}(1, 3)$, $\text{B}(4, -1)$ を通る直線のベクトル方程式を求め、座標形式 $ax + by + c = 0$ に変換せよ。

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解答

方向ベクトル $\vec{d} = \overrightarrow{\text{AB}} = (3, -4)$

ベクトル方程式:$\vec{p} = (1, 3) + t(3, -4)$ すなわち $(x, y) = (1 + 3t,\; 3 - 4t)$

$t$ を消去:$t = \dfrac{x-1}{3} = \dfrac{y-3}{-4}$ より $-4(x-1) = 3(y-3)$

$-4x + 4 = 3y - 9$ より $4x + 3y - 13 = 0$

解説

方針:ベクトルの成分計算を丁寧に行う。

採点ポイント
  • 方向ベクトルの計算 … 2点
  • ベクトル方程式の記述 … 3点
  • 座標形式への変換 … 3点