第7章 ベクトル

空間における距離と角度
─ 内積が測る「近さ」と「傾き」

空間幾何学の問題は、最終的に「距離を求めよ」「角度を求めよ」に帰着することが非常に多いです。2直線間の距離、直線と平面のなす角、2平面のなす角(二面角)── これらはすべて内積という統一的な道具で攻略できます。ここでは各場面での公式を導出し、ベクトルの内積がいかに万能な計量ツールであるかを体感しましょう。

12直線のなす角 ─ 方向ベクトルの内積

空間内の2直線のなす角とは、2直線を平行移動して交わらせたときにできる角のうち、$0°$ 以上 $90°$ 以下のものを指します。なぜ $90°$ 以下に限るのでしょうか。それは「2直線のなす角」が向きに依存しない量だからです。

💡 2直線のなす角の求め方の本質

方向ベクトル $\vec{d}_1$, $\vec{d}_2$ の内積の絶対値を使います。絶対値をとるのは、方向ベクトルの向きを逆にしても同じ直線だからです:

$$\cos\theta = \frac{|\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2|}{|\vec{d}_1||\vec{d}_2|} \quad (0° \le \theta \le 90°)$$

たとえば方向ベクトルが $\vec{d}_1 = (1, 2, -1)$、$\vec{d}_2 = (2, -1, 1)$ の2直線のなす角は:

$$\cos\theta = \frac{|2 - 2 - 1|}{\sqrt{6}\sqrt{6}} = \frac{1}{6}$$

よって $\theta = \cos^{-1}\dfrac{1}{6}$ です。

⚠️ 落とし穴:絶対値を忘れて鈍角が出てしまう

✗ $\cos\theta = \dfrac{\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2}{|\vec{d}_1||\vec{d}_2|}$ とそのまま計算して負の値が出た

○ 2直線のなす角は $0° \le \theta \le 90°$ なので、内積の値に絶対値をつける

方向ベクトルの向きの取り方で内積の符号は変わりますが、なす角は一意です。分子には必ず絶対値をつけましょう。

2直線が垂直・平行である条件

2直線が垂直のとき $\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2 = 0$、平行のとき $\vec{d}_1 = k\vec{d}_2$($k$ はスカラー)です。平行であることと一致することは別の概念であることに注意してください。

2直線と平面のなす角 ─ 法線ベクトルとの補角

直線と平面のなす角 $\theta$ は、直線が平面に対してどれだけ傾いているかを表す角度で、$0° \le \theta \le 90°$ の範囲で定義されます。直線が平面上にあれば $\theta = 0°$、垂直なら $\theta = 90°$ です。

法線ベクトルを経由する方法

直線の方向ベクトル $\vec{d}$ と平面の法線ベクトル $\vec{n}$ のなす角を $\phi$ とすると、直線と平面のなす角 $\theta$ との間に $\theta = 90° - \phi$(ただし $\phi \le 90°$)の関係があります。

📐 直線と平面のなす角

直線の方向ベクトル $\vec{d}$、平面の法線ベクトル $\vec{n}$ のとき:

$$\sin\theta = \frac{|\vec{d} \cdot \vec{n}|}{|\vec{d}||\vec{n}|} \quad (0° \le \theta \le 90°)$$

※ $\cos\phi = \dfrac{|\vec{d} \cdot \vec{n}|}{|\vec{d}||\vec{n}|}$ であり、$\theta = 90° - \phi$ なので $\sin\theta = \cos\phi$ が成り立ちます。

💡 なぜ $\sin$ で求まるのか

直線と平面のなす角 $\theta$ は、直線と法線のなす角 $\phi$ の余角($\theta + \phi = 90°$)です。だから $\sin\theta = \cos\phi$ となり、法線との内積($\cos\phi$ に対応)を計算すれば $\sin\theta$ が直接求まるのです。

⚠️ 落とし穴:$\cos$ と $\sin$ の取り違え

✗ $\cos\theta = \dfrac{|\vec{d} \cdot \vec{n}|}{|\vec{d}||\vec{n}|}$ としてしまう

○ 法線との内積で求まるのは $\sin\theta$(余角の関係)

$\vec{d}$ と $\vec{n}$ は「直線の方向」と「平面に垂直な方向」なので、その内積から出るのは $\sin\theta$ です。$\cos$ と混同しやすいので、「法線 → $\sin$」と覚えましょう。

32平面のなす角(二面角) ─ 法線同士の内積

2つの平面が交わるとき、その交線に垂直な断面で測った角を二面角といいます。二面角は2平面の「開き具合」を表す量です。

法線ベクトルによる計算

2平面の法線ベクトルをそれぞれ $\vec{n}_1$、$\vec{n}_2$ とすると、法線同士のなす角が二面角と等しくなります(ただし鋭角側を取る場合は絶対値が必要です)。

📐 2平面のなす角(二面角)

法線ベクトル $\vec{n}_1$, $\vec{n}_2$ をもつ2平面のなす角 $\theta$($0° \le \theta \le 90°$)は:

$$\cos\theta = \frac{|\vec{n}_1 \cdot \vec{n}_2|}{|\vec{n}_1||\vec{n}_2|}$$

※ 法線の向きによっては $\vec{n}_1 \cdot \vec{n}_2$ が負になるため、$0° \le \theta \le 90°$ とするなら絶対値をつけます。

たとえば平面 $x + y + z = 1$ と $x - y = 0$ の二面角を求めてみましょう。法線ベクトルは $\vec{n}_1 = (1, 1, 1)$、$\vec{n}_2 = (1, -1, 0)$ なので:

$$\cos\theta = \frac{|1 - 1 + 0|}{\sqrt{3}\sqrt{2}} = 0$$

よって $\theta = 90°$ です。この2平面は直交しています。

⚠️ 落とし穴:二面角と法線のなす角の関係

✗ 二面角は常に法線のなす角と一致する

○ 法線のなす角は $0°$ から $180°$ をとるが、二面角は $0°$ から $180°$ の範囲で定義される

問題で「二面角を求めよ($0° \le \theta \le 180°$)」と指定されている場合は、絶対値をつけずに法線の向きに注意して計算します。「鋭角側」と指定されていれば絶対値をつけます。

🔬 深掘り:二面角と微分幾何

大学の微分幾何学では、曲面同士のなす角は接平面の法線ベクトルで定義されます。ここで学んだ「法線同士の内積で角度を求める」手法は、平面に限らず曲面の接触角を計算する基礎となります。

4ねじれの位置にある2直線間の距離

空間では、平行でもなく交わりもしない2直線が存在します。これをねじれの位置にあるといいます。ねじれの位置の2直線間の距離は、入試でも頻出の重要テーマです。

距離の求め方の原理

ねじれの位置にある2直線 $\ell_1$、$\ell_2$ の距離とは、$\ell_1$ 上の点 $P$ と $\ell_2$ 上の点 $Q$ を動かしたときの $PQ$ の最小値です。この最小値は、両直線に共通に垂直な方向(共通垂線の方向)への正射影で求まります。

💡 ねじれの位置の2直線間の距離の本質

$\ell_1$ の方向ベクトル $\vec{d}_1$ と $\ell_2$ の方向ベクトル $\vec{d}_2$ の両方に垂直なベクトル $\vec{n} = \vec{d}_1 \times \vec{d}_2$ を考えます。$\ell_1$ 上の点 $A$ と $\ell_2$ 上の点 $B$ を結ぶベクトル $\overrightarrow{AB}$ を $\vec{n}$ 方向に射影した長さが距離です:

$$d = \frac{|\overrightarrow{AB} \cdot \vec{n}|}{|\vec{n}|} = \frac{|\overrightarrow{AB} \cdot (\vec{d}_1 \times \vec{d}_2)|}{|\vec{d}_1 \times \vec{d}_2|}$$

📐 ねじれの位置の2直線間の距離

$\ell_1$ が点 $A$ を通り方向ベクトル $\vec{d}_1$、$\ell_2$ が点 $B$ を通り方向ベクトル $\vec{d}_2$ のとき:

$$d = \frac{|\overrightarrow{AB} \cdot (\vec{d}_1 \times \vec{d}_2)|}{|\vec{d}_1 \times \vec{d}_2|}$$

※ 高校範囲で外積を使わない場合は、$\vec{n}$ を「$\vec{d}_1 \cdot \vec{n} = 0$ かつ $\vec{d}_2 \cdot \vec{n} = 0$」の連立方程式で求めます。

外積を使わない方法

高校の範囲では、次のような手順で求めることもできます:

  1. $\ell_1$ の方向ベクトル $\vec{d}_1$ と $\ell_2$ の方向ベクトル $\vec{d}_2$ の両方に垂直なベクトル $\vec{n} = (a, b, c)$ を、$\vec{d}_1 \cdot \vec{n} = 0$ かつ $\vec{d}_2 \cdot \vec{n} = 0$ を満たすように求める
  2. $\ell_1$ 上の任意の点 $A$ と $\ell_2$ 上の任意の点 $B$ を選ぶ
  3. $d = \dfrac{|\overrightarrow{AB} \cdot \vec{n}|}{|\vec{n}|}$ を計算する
⚠️ 落とし穴:$A$, $B$ の取り方は自由

✗ $A$, $B$ は特別な点(最近点)を見つけないといけない

○ 正射影を使う限り、$A$, $B$ はそれぞれの直線上のどの点でもよい

距離は「$\vec{n}$ 方向の成分」で決まるので、$\overrightarrow{AB}$ の $\vec{n}$ に垂直な成分($\vec{d}_1$, $\vec{d}_2$ 方向の成分)は結果に影響しません。計算しやすい点を選びましょう。

5点と平面の距離の公式の活用

前の記事で学んだ点と平面の距離の公式は、さまざまな場面で威力を発揮します。ここでは応用的な使い方をいくつか見ていきましょう。

平行な2平面間の距離

平行な2平面 $ax + by + cz + d_1 = 0$ と $ax + by + cz + d_2 = 0$ の距離は、一方の平面上の点から他方の平面への距離で求まります。

📐 平行な2平面間の距離

$$d = \frac{|d_1 - d_2|}{\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}}$$

※ 2平面の $x, y, z$ の係数が揃っている(法線ベクトルが同一)場合の公式です。

直線と平面の距離

直線が平面に平行なとき、直線と平面の距離は直線上の任意の点から平面への距離に等しいです。直線が平面と交われば距離は $0$ です。

平行な直線と平面の距離への帰着

ねじれの位置の2直線間の距離は、一方の直線と、他方の直線を含む平行な平面との距離として求めることもできます。$\ell_1$ の方向ベクトル $\vec{d}_1$ と $\ell_2$ の方向ベクトル $\vec{d}_2$ から、$\ell_2$ と $\vec{d}_1$ を含む平面 $\alpha$ を作り、$\ell_1$ 上の点から $\alpha$ への距離を計算する方法です。

💡 距離計算の統一的な考え方

空間における距離の問題は、すべて「ある方向への正射影の長さ」に帰着します:

・点と平面の距離 → 法線方向への正射影

・ねじれの位置の2直線間の距離 → 共通垂線方向への正射影

・平行な2平面間の距離 → 法線方向への正射影

内積 $\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ が「正射影の長さ」を計算する道具だからこそ、ベクトルの内積はあらゆる距離計算に使えるのです。

🔬 深掘り:距離と最小値問題

ねじれの位置の2直線間の距離を「$\ell_1$ 上の点 $P(s)$ と $\ell_2$ 上の点 $Q(t)$ の距離 $|PQ|^2$ を $s, t$ の関数として最小化する」という方法でも求められます。$|PQ|^2$ は $s, t$ の2次関数になるので、偏微分(あるいは連立方程式)で最小値が求まります。大学の最適化理論の入口ともいえる考え方です。

まとめ

✅ 確認テスト

Q1. 方向ベクトル $(1, 0, 1)$ と $(0, 1, 1)$ の2直線のなす角の余弦は?

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$\cos\theta = \dfrac{|0+0+1|}{\sqrt{2}\sqrt{2}} = \dfrac{1}{2}$ より $\theta = 60°$

Q2. 直線の方向ベクトル $(1, 1, 1)$ と平面の法線ベクトル $(1, -1, 0)$ のとき、直線と平面のなす角 $\theta$ について $\sin\theta$ の値は?

▶ 答えを見る
$\sin\theta = \dfrac{|1-1+0|}{\sqrt{3}\sqrt{2}} = 0$ より $\theta = 0°$(直線は平面に平行)

Q3. 平面 $x + y + z = 0$ と $x - y + z = 0$ の二面角は?

▶ 答えを見る
$\cos\theta = \dfrac{|1-1+1|}{\sqrt{3}\sqrt{3}} = \dfrac{1}{3}$ より $\theta = \cos^{-1}\dfrac{1}{3}$

Q4. 平行な2平面 $x + 2y - 2z + 3 = 0$ と $x + 2y - 2z - 6 = 0$ の距離は?

▶ 答えを見る
$d = \dfrac{|3-(-6)|}{\sqrt{1+4+4}} = \dfrac{9}{3} = 3$

Q5. 2直線がねじれの位置にあるとき、共通垂線の方向を $\vec{n}$ とすると、$\vec{n}$ はどのような条件を満たすか?

▶ 答えを見る
$\vec{n}$ は両方の方向ベクトル $\vec{d}_1$, $\vec{d}_2$ に垂直、すなわち $\vec{n} \cdot \vec{d}_1 = 0$ かつ $\vec{n} \cdot \vec{d}_2 = 0$

入試問題演習

問題 1 LEVEL A 直線と平面のなす角

直線 $\ell: \dfrac{x-1}{2} = \dfrac{y}{1} = \dfrac{z+1}{-2}$ と平面 $\alpha: x + 2y + 2z - 3 = 0$ のなす角 $\theta$ を求めよ。

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解答

直線の方向ベクトルは $\vec{d} = (2, 1, -2)$、平面の法線ベクトルは $\vec{n} = (1, 2, 2)$。

$$\sin\theta = \frac{|\vec{d} \cdot \vec{n}|}{|\vec{d}||\vec{n}|} = \frac{|2 + 2 - 4|}{\sqrt{9}\sqrt{9}} = \frac{0}{9} = 0$$

よって $\theta = 0°$。直線 $\ell$ は平面 $\alpha$ に平行です。

解説

方針:複素数の極形式と偏角の性質を活用する。

採点ポイント
  • 方向ベクトル・法線ベクトルの読み取り … 3点
  • $\sin\theta$ の公式を正しく適用 … 4点
  • $\theta = 0°$ の結論 … 3点
  • $\sin\theta$ の公式を正しく適用 … 4点
  • $\theta = 0°$ の結論 … 3点