平面ベクトルで威力を発揮した内積は、空間ベクトルでも全く同じように使えます。成分が3つになっても、角度の計算、垂直条件の判定、正射影への応用といった内積の役割は変わりません。ここでは空間における内積の計算方法と、空間特有のテーマである方向余弦について学びます。
空間の2点 $\mathrm{A}(a_1, a_2, a_3)$, $\mathrm{B}(b_1, b_2, b_3)$ に対して、ベクトル $\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ の成分は平面の場合と同じく「終点 - 始点」です。
$$\overrightarrow{\mathrm{AB}} = (b_1 - a_1,\; b_2 - a_2,\; b_3 - a_3)$$
※ 平面の $(b_1-a_1, b_2-a_2)$ に $z$ 成分 $b_3 - a_3$ を加えただけです。
成分表示の意味は「$x$ 方向にいくつ、$y$ 方向にいくつ、$z$ 方向にいくつ進むか」です。始点をどこに置いても、同じ方向に同じ量だけ進むベクトルは同じベクトルとみなします。
✗ 誤:$\overrightarrow{\mathrm{AB}} = (a_1-b_1, a_2-b_2, a_3-b_3)$(始点の座標を先に書く)
○ 正:$\overrightarrow{\mathrm{AB}} = (b_1-a_1, b_2-a_2, b_3-a_3)$(終点 $-$ 始点)
「$\mathrm{A}$ から $\mathrm{B}$ へ」のベクトルなので $\mathrm{B}$ の座標から $\mathrm{A}$ の座標を引きます。逆にすると向きが反対になります。
$\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$ と $\vec{b} = (b_1, b_2, b_3)$ が平行($\vec{a} \parallel \vec{b}$)であるとは、$\vec{b} = k\vec{a}$(実数 $k$)が成り立つこと、すなわち各成分の比が等しいことです。
$$\frac{b_1}{a_1} = \frac{b_2}{a_2} = \frac{b_3}{a_3} = k \quad (\text{ただし } a_i \neq 0)$$
成分に $0$ が含まれる場合は比の表記に注意が必要で、$\vec{b} = k\vec{a}$ の形で確認するのが確実です。
空間ベクトルの内積の定義も、平面のときと全く同じ構造です。幾何的な定義(角度を使うもの)と成分による計算法の2つがあり、両者が一致することが本質です。
幾何的定義:$\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$($\theta$ は $\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角)
成分計算:$\vec{a} \cdot \vec{b} = a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3$
※ 平面の $a_1 b_1 + a_2 b_2$ に $a_3 b_3$ の項が加わっただけです。
「各成分の積を足し合わせる」という操作が「角度情報を取り出す」のは、2次元でも3次元でも変わりません。これは余弦定理 $|\vec{a}-\vec{b}|^2 = |\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 - 2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ から自然に導かれ、成分数がいくつであっても成り立ちます。
$|\vec{a}-\vec{b}|^2 = (a_1-b_1)^2 + (a_2-b_2)^2 + (a_3-b_3)^2$
$= a_1^2+a_2^2+a_3^2 + b_1^2+b_2^2+b_3^2 - 2(a_1 b_1+a_2 b_2+a_3 b_3)$
$= |\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 - 2(a_1 b_1+a_2 b_2+a_3 b_3)$
一方、余弦定理より $|\vec{a}-\vec{b}|^2 = |\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$
比較して $a_1 b_1+a_2 b_2+a_3 b_3 = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ が得られます。
空間ベクトルの内積も、平面と同じ性質を持ちます。
✗ 誤:$\vec{e}_1 \cdot \vec{e}_2 = 1$(基本ベクトル同士の内積は $1$)
○ 正:$\vec{e}_i \cdot \vec{e}_j = \begin{cases} 1 & (i = j) \\ 0 & (i \neq j) \end{cases}$
基本ベクトル $\vec{e}_1, \vec{e}_2, \vec{e}_3$ は互いに垂直で大きさ $1$ です。異なる基本ベクトル同士の内積は $0$ です。
空間では2つのベクトルのなす角を目で見て測ることが難しいため、内積による計算がとりわけ重要になります。
$$\cos\theta = \frac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}||\vec{b}|} = \frac{a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3}{\sqrt{a_1^2+a_2^2+a_3^2}\;\sqrt{b_1^2+b_2^2+b_3^2}}$$
垂直条件:$\vec{a} \perp \vec{b} \Leftrightarrow \vec{a} \cdot \vec{b} = 0 \Leftrightarrow a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3 = 0$
※ なす角 $\theta$ は $0 \le \theta \le \pi$ の範囲で定めます。
$a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3 = 0$ は、各座標軸方向の「投影の積」が打ち消し合っていることを意味します。直感的には、$\vec{a}$ が右に進む分と $\vec{b}$ が右に進む分、上に進む分…をかけ合わせて全て足すとゼロになる ── つまり「全体として向きの一致度がゼロ」ということです。
平面では2つのベクトルのなす角さえ分かればよかったのですが、空間では2つの直線のなす角という概念も重要です。2直線の方向ベクトルを $\vec{d}_1, \vec{d}_2$ とすると、2直線のなす角 $\alpha$($0 \le \alpha \le \dfrac{\pi}{2}$)は:
$$\cos\alpha = \frac{|\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2|}{|\vec{d}_1||\vec{d}_2|}$$
$\cos\theta$ でなく $|\cos\theta|$ をとるのは、方向ベクトルの向きによって $\theta$ が鋭角にも鈍角にもなりうるためです。2直線のなす角は常に $0$ 以上 $\dfrac{\pi}{2}$ 以下と約束します。
✗ 誤:2直線のなす角を $\cos\theta = \dfrac{\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2}{|\vec{d}_1||\vec{d}_2|}$ で求める($\cos\theta < 0$ のまま使う)
○ 正:$\cos\alpha = \dfrac{|\vec{d}_1 \cdot \vec{d}_2|}{|\vec{d}_1||\vec{d}_2|}$ と絶対値をとる(2直線のなす角は鋭角側)
ベクトルのなす角は $0 \le \theta \le \pi$ ですが、直線のなす角は $0 \le \alpha \le \dfrac{\pi}{2}$ です。答えが鈍角になったら $\pi - \theta$ とするか、最初から絶対値をとりましょう。
空間ベクトル $\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$ が各座標軸の正方向となす角を $\alpha, \beta, \gamma$ とすると、$\cos\alpha, \cos\beta, \cos\gamma$ を $\vec{a}$ の方向余弦と呼びます。
$$\cos\alpha = \frac{a_1}{|\vec{a}|}, \quad \cos\beta = \frac{a_2}{|\vec{a}|}, \quad \cos\gamma = \frac{a_3}{|\vec{a}|}$$
重要な性質:$\cos^2\alpha + \cos^2\beta + \cos^2\gamma = 1$
※ 方向余弦は、$\vec{a}$ の単位ベクトル $\hat{a} = \dfrac{\vec{a}}{|\vec{a}|}$ の成分そのものです。
$$\cos^2\alpha + \cos^2\beta + \cos^2\gamma = \frac{a_1^2}{|\vec{a}|^2} + \frac{a_2^2}{|\vec{a}|^2} + \frac{a_3^2}{|\vec{a}|^2} = \frac{a_1^2+a_2^2+a_3^2}{|\vec{a}|^2} = 1$$
これは単位ベクトルの大きさが $1$ であること $|\hat{a}| = 1$ と同じことです。
方向余弦 $(\cos\alpha, \cos\beta, \cos\gamma)$ は、ベクトルの「大きさ」を取り除いた「純粋な向き」の情報です。大きさ $r$ のベクトルの成分は $(r\cos\alpha, r\cos\beta, r\cos\gamma)$ と書けるので、向きと大きさを分離して扱えます。
これは極座標(2次元で $r, \theta$ を使ったもの)の3次元版に相当します。
✗ 誤:方向余弦の和が $1$
○ 正:方向余弦の2乗の和が $1$
$\cos\alpha + \cos\beta + \cos\gamma = 1$ は一般には成り立ちません。成り立つのは2乗の和です。
大学の物理学や数学では、方向を2つの角度 $(\theta, \phi)$ で表す球面座標系がよく使われます。方向余弦は $(\sin\theta\cos\phi, \sin\theta\sin\phi, \cos\theta)$ と書け、単位球面上の点と1対1に対応します。3DCGの光源計算や物理のシミュレーションで必須の概念です。
平面で学んだ正射影ベクトルは、空間でも全く同じ公式で使えます。空間ではさらに「2つのベクトルに垂直なベクトル」を求める問題も頻出です。
公式は平面と同じです。$\vec{b}$ の $\vec{a}$ 方向への正射影ベクトルは:
$$\text{proj}_{\vec{a}}\vec{b} = \frac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}\vec{a}$$
空間では、与えられた2つのベクトル $\vec{a}, \vec{b}$ の両方に垂直なベクトル $\vec{n}$ を求める問題がしばしば出題されます。$\vec{n} = (x, y, z)$ として $\vec{a} \cdot \vec{n} = 0$ かつ $\vec{b} \cdot \vec{n} = 0$ の連立方程式を解きます。
$\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$, $\vec{b} = (b_1, b_2, b_3)$ に対して、
$$a_1 x + a_2 y + a_3 z = 0 \quad \text{かつ} \quad b_1 x + b_2 y + b_3 z = 0$$
2つの方程式に未知数3つなので、1つのパラメータ分の自由度が残ります。つまり「$\vec{a}$ と $\vec{b}$ の両方に垂直なベクトル」は、方向は一意ですが、大きさは自由に選べます。
$\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$, $\vec{b} = (b_1, b_2, b_3)$ の両方に垂直なベクトルの一つは:
$$\vec{n} = (a_2 b_3 - a_3 b_2,\; a_3 b_1 - a_1 b_3,\; a_1 b_2 - a_2 b_1)$$
※ これは大学で学ぶ外積 $\vec{a} \times \vec{b}$ の成分そのものです。高校では連立方程式で求めますが、この公式を覚えると計算が速くなります。
✗ 誤:$\vec{a}$ と $\vec{b}$ に垂直なベクトルは1つしかない
○ 正:方向は一意(2方向)だが、大きさは任意。$k\vec{n}$($k \neq 0$)は全て垂直
問題で「大きさ $1$ の」「成分が整数の」などの追加条件がついている場合は、それに合わせて調整しましょう。
$\vec{a} \times \vec{b}$ の大きさ $|\vec{a} \times \vec{b}| = |\vec{a}||\vec{b}|\sin\theta$ は、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ が張る平行四辺形の面積です。内積が「向きの一致度」を表すのに対し、外積は「どれだけ異なる方向を向いているか(面積的な広がり)」を表しています。
Q1. $\vec{a} = (1, 2, -1)$, $\vec{b} = (3, -1, 2)$ の内積は?
Q2. $\vec{a} = (2, -1, 2)$ と $x$ 軸の正方向のなす角の余弦は?
Q3. $\vec{a} = (1, 1, 0)$, $\vec{b} = (0, 1, 1)$ のなす角 $\theta$ を求めよ。
Q4. 方向余弦 $(\cos\alpha, \cos\beta, \cos\gamma)$ が満たす等式は?
Q5. $\vec{a} = (1, 0, 1)$, $\vec{b} = (0, 1, 1)$ の両方に垂直な単位ベクトルは?
$\vec{a} = (2, 1, -2)$, $\vec{b} = (1, -2, 2)$ とする。$\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角 $\theta$ を求めよ。また $\vec{a}+\vec{b}$ と $\vec{a}-\vec{b}$ が垂直であるかどうか判定せよ。
$\vec{a} \cdot \vec{b} = 2-2-4 = -4$、$|\vec{a}| = \sqrt{4+1+4} = 3$、$|\vec{b}| = \sqrt{1+4+4} = 3$
$\cos\theta = \dfrac{-4}{9}$ より $\theta = \arccos\!\left(-\dfrac{4}{9}\right)$($\theta$ は鈍角)
$\vec{a}+\vec{b} = (3, -1, 0)$, $\vec{a}-\vec{b} = (1, 3, -4)$
$(\vec{a}+\vec{b}) \cdot (\vec{a}-\vec{b}) = 3-3+0 = 0$
よって $\vec{a}+\vec{b} \perp \vec{a}-\vec{b}$(垂直である)。
(これは $|\vec{a}| = |\vec{b}| = 3$ の場合に $|\vec{a}+\vec{b}|$ と $|\vec{a}-\vec{b}|$ が菱形の対角線になるため、一般に成立。)
方針:ベクトルの成分計算を丁寧に行う。