平面ベクトルの基本操作(内積・位置ベクトル・一次独立など)を学んできました。ここでは、それらの道具を駆使して解く応用問題に取り組みます。内積の最大最小問題、正射影ベクトル、ベクトルによる軌跡の追跡、そして面積比の計算まで、入試で頻出の応用パターンを一つずつ整理していきましょう。
内積 $\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ は、2つのベクトルの「向きの一致度」を数値化したものです。この式には角度 $\theta$ が含まれるため、一方のベクトルが動くと内積の値も変化します。ここに「最大・最小」を問う余地が生まれます。
内積の最大最小問題の多くは、「$\cos\theta$ の範囲が $-1 \le \cos\theta \le 1$」という事実に帰着します。ベクトルの大きさが定まっているとき、$\vec{a} \cdot \vec{b}$ は $\theta = 0$(同じ向き)で最大、$\theta = \pi$(逆向き)で最小です。
大きさ自体も変化する場合は、成分表示に直して2変数関数の最大最小問題に変換するのが常套手段です。
点 $\mathrm{P}$ が円 $x^2 + y^2 = r^2$ 上を動くとき、$\vec{p} = (x, y)$ として定ベクトル $\vec{a} = (a_1, a_2)$ との内積 $\vec{a} \cdot \vec{p}$ の最大値・最小値を求める問題を考えましょう。
$\mathrm{P}$ を $(r\cos\theta, r\sin\theta)$ とパラメータ表示すると、
$$\vec{a} \cdot \vec{p} = a_1 r\cos\theta + a_2 r\sin\theta = r\sqrt{a_1^2 + a_2^2}\sin(\theta + \alpha)$$
(ただし $\alpha$ は $\sin\alpha = \dfrac{a_1}{\sqrt{a_1^2+a_2^2}}$, $\cos\alpha = \dfrac{a_2}{\sqrt{a_1^2+a_2^2}}$ を満たす角度)
よって、最大値は $r|\vec{a}|$、最小値は $-r|\vec{a}|$ です。これは幾何的には、$\vec{a}$ 方向への円の射影の端点に対応しています。
$\mathrm{P}$ が原点中心、半径 $r$ の円上を動くとき、定ベクトル $\vec{a}$ に対して:
$$-r|\vec{a}| \le \vec{a} \cdot \vec{p} \le r|\vec{a}|$$
※ 中心が原点でない場合は、$\vec{p} = \vec{c} + r(\cos\theta, \sin\theta)$ として $\vec{a} \cdot \vec{p} = \vec{a} \cdot \vec{c} + r|\vec{a}|\sin(\theta + \alpha)$ に帰着します。
✗ 誤:$a_1 r\cos\theta + a_2 r\sin\theta$ の最大値を「$a_1 r + a_2 r$」とする
○ 正:$\cos\theta$ と $\sin\theta$ は独立に最大値 $1$ をとれない。三角関数の合成を適用する
$\cos\theta = 1$ と $\sin\theta = 1$ を同時に実現することはできません。合成公式を使って振幅 $\sqrt{a_1^2 + a_2^2}$ を求めましょう。
「$|\vec{p}| = r$」のような束縛条件のもとで内積を最大化する問題は、本質的にはラグランジュの未定乗数法と同じ構造です。高校範囲ではパラメータ表示による置換が定石ですが、「制約付き最適化」という視点を持つと、なぜこの方法がうまくいくのかが理解できます。
✗ 誤:$|\vec{a}||\vec{p}|\cos\theta$ で $\cos\theta = 1$ とおけば最大
○ 正:$|\vec{p}|$ も変化するなら $\cos\theta = 1$ だけでは不十分。$|\vec{p}|$ の最大値も考慮する
$\vec{p}$ が円上を動くなら $|\vec{p}|$ は定数なのでこの方法で構いませんが、楕円上や領域内を動く場合は成分に展開して考えましょう。
正射影ベクトルとは、あるベクトルを別のベクトルの方向に「影」として落としたものです。太陽の光が真横から当たったとき、棒の影が地面に映るイメージです。この操作は線形代数の根幹をなすもので、高校数学でもベクトルの応用問題で頻繁に登場します。
$\vec{b}$ の $\vec{a}$ 方向への正射影ベクトルは:
$$\text{proj}_{\vec{a}}\vec{b} = \frac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}\vec{a}$$
※ $\vec{a}$ の単位ベクトル $\hat{a} = \dfrac{\vec{a}}{|\vec{a}|}$ を用いると、$\text{proj}_{\vec{a}}\vec{b} = (\vec{b} \cdot \hat{a})\hat{a}$ とも書けます。
$\vec{b}$ を $\vec{a}$ 方向の成分 $\vec{b}_{\parallel}$ と、$\vec{a}$ に垂直な成分 $\vec{b}_{\perp}$ に分解することを考えます。
$\vec{b}_{\parallel} = t\vec{a}$ とおくと、$\vec{b}_{\perp} = \vec{b} - t\vec{a}$ が $\vec{a}$ と垂直になる条件は $(\vec{b} - t\vec{a}) \cdot \vec{a} = 0$ です。
これを解くと $t = \dfrac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}$ が得られます。つまり、正射影ベクトルは「$\vec{a}$ と垂直な成分を取り除く操作」です。
直線 $\ell$ 上の点 $\mathrm{A}$ から方向ベクトル $\vec{d}$ の方向に直線が伸びているとき、点 $\mathrm{P}$ から直線 $\ell$ への距離は、$\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ から $\vec{d}$ 方向の正射影成分を取り除いた部分の大きさです。
$$(\text{距離}) = \left|\overrightarrow{\mathrm{AP}} - \frac{\overrightarrow{\mathrm{AP}} \cdot \vec{d}}{|\vec{d}|^2}\vec{d}\right|$$
これは $\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ の $\vec{d}$ に垂直な成分の大きさに他なりません。
✗ 誤:$\text{proj}_{\vec{a}}\vec{b} = \dfrac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|}\vec{a}$ とする
○ 正:$\text{proj}_{\vec{a}}\vec{b} = \dfrac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}\vec{a}$(分母は $|\vec{a}|^2$)
分母に $|\vec{a}|^2$ がつくのは、スカラー係数 $t$ が $\dfrac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}$ だからです。$\dfrac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|}$ は正射影の「長さ」(符号付き)であり、ベクトルではありません。
正射影は大学の線形代数で「直交射影」として一般化されます。さらに、データ分析で使われる最小二乗法(回帰直線を求める方法)は、実はデータの正射影を計算していることに相当します。「影を落とす」というシンプルな操作が、統計学の基盤になっているのです。
「条件を満たす点の全体はどんな図形になるか」という軌跡の問題は、座標を使っても解けますが、ベクトルを使うと見通しよく処理できる場合が多くあります。ベクトルで軌跡を求める基本戦略を見ていきましょう。
点 $\mathrm{A}$ を固定し、点 $\mathrm{B}$ が円上を動くとき、線分 $\mathrm{AB}$ を $m : n$ に内分する点 $\mathrm{P}$ の軌跡を求める問題を考えます。
位置ベクトルで表すと $\vec{p} = \dfrac{n\vec{a} + m\vec{b}}{m+n}$ です。$\vec{b}$ が中心 $\vec{c}$、半径 $r$ の円上を動くとき、
$$\vec{p} - \frac{n\vec{a} + m\vec{c}}{m+n} = \frac{m}{m+n}(\vec{b} - \vec{c})$$
左辺は $\mathrm{P}$ のある定点からのズレ、右辺は大きさ $\dfrac{mr}{m+n}$ のベクトルです。よって $\mathrm{P}$ は中心 $\dfrac{n\vec{a} + m\vec{c}}{m+n}$、半径 $\dfrac{mr}{m+n}$ の円を描きます。
Step 1:動点 $\mathrm{P}$ の位置ベクトル $\vec{p}$ を、動くパラメータ($\vec{b}$ など)で表す
Step 2:$\vec{p}$ から定点を引いた差ベクトルを作り、その大きさや方向の条件を読み取る
Step 3:$|\vec{p} - \vec{q}| = r$(一定)なら円、$(\vec{p} - \vec{q}) \cdot \vec{d} = 0$ なら直線など、図形の方程式に帰着させる
$\overrightarrow{\mathrm{PA}} \cdot \overrightarrow{\mathrm{PB}} = 0$ という条件は、$\mathrm{P}$ から見て $\mathrm{A}$ と $\mathrm{B}$ が直角に見えることを意味します。これは線分 $\mathrm{AB}$ を直径とする円の円周上に $\mathrm{P}$ があることと同値です(ただし $\mathrm{P} \neq \mathrm{A}, \mathrm{B}$)。
このことを確認しましょう。$\vec{p}$ を原点基準の位置ベクトルとすると、
$$(\vec{a} - \vec{p}) \cdot (\vec{b} - \vec{p}) = 0$$
$$\vec{p} \cdot \vec{p} - (\vec{a} + \vec{b}) \cdot \vec{p} + \vec{a} \cdot \vec{b} = 0$$
$$\left|\vec{p} - \frac{\vec{a}+\vec{b}}{2}\right|^2 = \frac{|\vec{a}-\vec{b}|^2}{4}$$
これはまさに、中心が $\mathrm{AB}$ の中点、半径が $\dfrac{|\mathrm{AB}|}{2}$ の円の方程式です。
✗ 誤:$\overrightarrow{\mathrm{PA}} \cdot \overrightarrow{\mathrm{PB}} = 0$ の軌跡は「$\mathrm{AB}$ を直径とする円」
○ 正:$\mathrm{P} = \mathrm{A}$ または $\mathrm{P} = \mathrm{B}$ のとき $\overrightarrow{\mathrm{PA}} = \vec{0}$ や $\overrightarrow{\mathrm{PB}} = \vec{0}$ となり、「直角」の意味がない
問題文の条件によっては端点を除く必要があります。「ただし $\mathrm{P} \neq \mathrm{A}, \mathrm{B}$」の但し書きを確認しましょう。
平面上の三角形の面積は、2つのベクトルの成分を使って計算できます。この公式は空間ベクトルの外積の2次元版であり、ベクトルの応用で最も実用的な道具の一つです。
$\vec{a} = (a_1, a_2)$、$\vec{b} = (b_1, b_2)$ のとき、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ が作る三角形(平行四辺形の半分)の面積は:
$$S = \frac{1}{2}|a_1 b_2 - a_2 b_1|$$
※ $|a_1 b_2 - a_2 b_1|$ は $\vec{a}$ と $\vec{b}$ が張る平行四辺形の面積です。この量を2次元の「外積」と呼ぶこともあります。
$\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角を $\theta$ とすると、平行四辺形の面積は $|\vec{a}||\vec{b}|\sin\theta$ です。
$\sin^2\theta = 1 - \cos^2\theta$ を使うと、
$$|\vec{a}|^2|\vec{b}|^2\sin^2\theta = |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2 - (\vec{a} \cdot \vec{b})^2$$
$$= (a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2) - (a_1 b_1 + a_2 b_2)^2$$
$$= a_1^2 b_2^2 - 2a_1 a_2 b_1 b_2 + a_2^2 b_1^2 = (a_1 b_2 - a_2 b_1)^2$$
よって面積 $= \dfrac{1}{2}|\vec{a}||\vec{b}|\sin\theta = \dfrac{1}{2}|a_1 b_2 - a_2 b_1|$ が得られます。
三角形 $\mathrm{ABC}$ の内部に点 $\mathrm{P}$ があり、$\overrightarrow{\mathrm{AP}} = s\overrightarrow{\mathrm{AB}} + t\overrightarrow{\mathrm{AC}}$($s, t \ge 0$, $s + t \le 1$)と表されるとき、面積比は次のように求まります。
$$\frac{\triangle \mathrm{ABP}}{\triangle \mathrm{ABC}} = t, \quad \frac{\triangle \mathrm{ACP}}{\triangle \mathrm{ABC}} = s, \quad \frac{\triangle \mathrm{BCP}}{\triangle \mathrm{ABC}} = 1 - s - t$$
$\overrightarrow{\mathrm{AP}} = s\overrightarrow{\mathrm{AB}} + t\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ における係数 $s, t$ がそのまま面積比を与えます。これは偶然ではなく、平行四辺形の面積が辺の長さに比例することの帰結です。
入試では $\mathrm{P}$ を内分点条件などから $s, t$ で表し、そこから面積比を即座に読み取るテクニックが頻出です。
$a_1 b_2 - a_2 b_1$ という量は、3次元の外積 $\vec{a} \times \vec{b}$ の $z$ 成分です。大学の線形代数では行列式 $\det(\vec{a}, \vec{b})$ として扱い、符号つきの面積として解釈します。符号は「$\vec{a}$ から $\vec{b}$ への回転方向」を表し、反時計回りが正です。
✗ 誤:$\overrightarrow{\mathrm{AP}} = s\overrightarrow{\mathrm{AB}} + t\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ で $\triangle\mathrm{ABP} : \triangle\mathrm{ABC} = s$
○ 正:$\triangle\mathrm{ABP} : \triangle\mathrm{ABC} = t$($\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ の係数が $\triangle\mathrm{ABP}$ の比)
$\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ の係数 $s$ は $\triangle\mathrm{ACP}$ の面積比、$\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ の係数 $t$ は $\triangle\mathrm{ABP}$ の面積比です。交差する対応になる点に注意しましょう。
ベクトルの応用問題は、一見すると多様に見えますが、使う道具は限られています。問題文のキーワードからどの道具を使うかを素早く判断する力が、入試本番では重要です。
| 問題のキーワード | 使う道具 | 典型的な解法 |
|---|---|---|
| 「最大値」「最小値」 | 内積・三角関数の合成 | パラメータ表示して1変数に帰着 |
| 「垂直」「最短距離」 | 正射影ベクトル | $\vec{a}$ 方向と垂直方向に分解 |
| 「軌跡」「動点」 | 位置ベクトル | $|\vec{p} - \vec{q}| = r$ の形に変形 |
| 「面積比」「内分点」 | 面積公式・係数読み取り | $\overrightarrow{\mathrm{AP}} = s\overrightarrow{\mathrm{AB}} + t\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ の $s, t$ から判断 |
入試では上記のパターンが複合的に出題されます。たとえば「軌跡を求め、その上での内積の最大値を求めよ」のように、軌跡の問題と最大最小の問題が連動することがあります。
こうした複合問題に対しては、まず各小問が上の分類のどれに当たるかを判断し、一つずつ処理していくことが大切です。焦って全体を一度に見渡そうとするより、パーツごとに分解するほうが確実です。
高校で学ぶベクトルの応用(正射影・面積・軌跡)は、大学の線形代数では「内積空間」「行列式」「アフィン変換」といった概念に発展します。特に正射影は、グラムシュミットの直交化法や最小二乗法の基礎となる重要な操作です。
Q1. $\vec{a} = (3, 4)$ で、点 $\mathrm{P}$ が原点中心・半径 $2$ の円上を動くとき、$\vec{a} \cdot \vec{p}$ の最大値は?
Q2. $\vec{a} = (1, 2)$, $\vec{b} = (3, 1)$ のとき、$\vec{b}$ の $\vec{a}$ 方向への正射影ベクトルは?
Q3. $\overrightarrow{\mathrm{PA}} \cdot \overrightarrow{\mathrm{PB}} = 0$ を満たす点 $\mathrm{P}$ の軌跡は、どんな図形か?
Q4. $\vec{a} = (2, 3)$, $\vec{b} = (4, 1)$ が作る三角形の面積は?
Q5. $\overrightarrow{\mathrm{AP}} = \dfrac{1}{3}\overrightarrow{\mathrm{AB}} + \dfrac{1}{4}\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ のとき、$\dfrac{\triangle\mathrm{BCP}}{\triangle\mathrm{ABC}}$ は?
$\vec{a} = (2, 1)$, $\vec{b} = (4, 3)$ とする。$\vec{b}$ を $\vec{a}$ 方向の成分と $\vec{a}$ に垂直な成分に分解せよ。
$\vec{a}$ 方向の成分(正射影ベクトル)は:
$$\vec{b}_{\parallel} = \frac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}|^2}\vec{a} = \frac{8+3}{4+1}(2,1) = \frac{11}{5}(2,1) = \left(\frac{22}{5}, \frac{11}{5}\right)$$
$\vec{a}$ に垂直な成分は:
$$\vec{b}_{\perp} = \vec{b} - \vec{b}_{\parallel} = \left(4 - \frac{22}{5},\; 3 - \frac{11}{5}\right) = \left(-\frac{2}{5},\; \frac{4}{5}\right)$$
検算:$\vec{b}_{\perp} \cdot \vec{a} = -\dfrac{2}{5} \times 2 + \dfrac{4}{5} \times 1 = -\dfrac{4}{5} + \dfrac{4}{5} = 0$ ✓
方針:ベクトルの成分計算を丁寧に行う。